12月29日、噴煙が上がる桜島を望む、鹿児島県の白波スタジアムで、ジュニア(小学生)年代の選手たちが日本一をかけて熱戦を繰り広げた。今大会で43回目を迎える「全日本U-12サッカー選手権大会」の決勝は、千葉県代表の柏レイソルU-12(…

 12月29日、噴煙が上がる桜島を望む、鹿児島県の白波スタジアムで、ジュニア(小学生)年代の選手たちが日本一をかけて熱戦を繰り広げた。今大会で43回目を迎える「全日本U-12サッカー選手権大会」の決勝は、千葉県代表の柏レイソルU-12(以下、柏)と神奈川県第2代表のバディーSC(以下、バディー)が激突した。



見事な逆転勝利で優勝した神奈川のバディーSC

 序盤から激しい主導権争いを見せる両チームだったが、先にペースを握ったのは柏だった。

 Jクラブらしくディフェンスラインからパスを回し、ボランチが丁寧にボールを散らしながらゲームをつくる。それに応じて「1-3-3-1」(※ジュニアの試合は8人制)の1トップが起点をつくったり、サイドに流れたりしながら相手の目先を惑わし、両サイドが積極的に仕掛ける。まさにトップチームを思わせる攻撃の組み立てだった。

 やはり先制ゴールは、先にペースをつかんだ柏が挙げた。

 前半9分、クリアボールを1トップの越川翔矢が拾うと、そのまま相手陣内までボールを運ぶ。それに慌てたバディーの守備がプレッシャーをかけようとボールに集中すると、右サイドのスペースに見事なスルーパスを通した。これに反応したのが、駆け上がった三村叶夢(かなめ)。ゴールキーパーの動きを見ながらしっかりとゴールを決めた。

 それまでボールを保持される時間が長かったバディーは、もう同点に追いつくしかない。

 あとがなくなったバディーは、攻守に積極性が出始めた。とにかくボール保持者にプレッシャーをかけ続け、パスコースをつくる相手もガンガン潰しにかかった。その粘り強い守備が功を奏し、前半の終盤あたりから徐々に柏が攻めあぐねるシーンが散見された。

 後半も、バディーは全員が攻守にアクションを起こした。攻撃の中心を担う「1-3-3-1」の右サイドハーフ白井誠也が、チームがボールを持てば中央にも顔を出して起点をつくる。それに呼応して右サイドバックの加藤諒次がポジションを高めに取り、オフ・ザ・ボールの動きで相手を混乱に陥れた。

 すると後半3分、白井のドリブル突破から同点ゴールが生まれる。

 一度は中央からの攻めを試みて失敗したが、こぼれ玉を拾い直し、今度はスペースのある右サイド方向へとドリブルを仕掛けた。この強引な突破に柏の守備も後手に回る。白井はペナリティーエリア深くまで切り込むと、グラウンダーの速いボールを中央へと送り込んだ。そこにタイミングよく合わせたのが田中菱。ダイレクトでゴールに流し込み、ネットを揺さぶった。

 この同点ゴールを機に、ペースはバディーに傾いた。

 攻守に主体的なアクションを起こすことで、柏の選手はリアクションでプレーするシーンが目立った。バディーの選手は、個々がその時々でできる最大限のプレーにチャレンジしていた。そんな流れで見せた逆転ゴールが、それを象徴していた。

 自陣のペナルティーエリア内外で2度のスライディングを試みてピンチを切り抜けると、そのこぼれ玉を拾った八里悠太がひとりでボールを前に進めた。1トップとして交代出場した八里のプレーは、今大会でも指折りのベストシーンだった。相手ペナルティーエリア内左サイドまで進入すると、躊躇なくシュートを放った。

 普通なら8割はセンタリングを選択するシーンだ。柏の守備陣もそれを予測し、GKを含めて中央をケアする対応をしていた。だが、結果的に八里のシュートはその裏をかいた。ボールはニアサイドからゴールに吸い込まれる形で、逆転ゴールとなった。

 その後もバディーのペースは続いた。後半17分にコーナーキックで追加点を決めると、そのまま3−1で試合終了のホイッスル。ライトブルーのユニホームに身を包む選手たちは喜びを爆発させた。

 今大会は、昨年の川崎フロンターレの優勝により(※優勝県から翌年は2チーム出場)、神奈川県の第2代表として出場権を得たバディーが優勝し、神奈川のレベルの高さを示す形となった。そこにも通じることだが、上位から下位までのレベル差が縮まったと感じさせられた大会だった。

 その理由として、2つの事実が挙げられる。

 一つは、二桁得点差がつく試合が一つもなかったことだ。例年ならグループリーグでは大量得点差がつく試合が目につくが、今大会は比較的に拮抗した試合が多かった。もう一つは、人口が少ないエリアのチームもきちんと勝ち点を取っていた点である。

 これはジュニア世代のコーチのレベルが、全体的に上がったことを意味している。

 それを証明するように、ベンチからの怒鳴り声がほとんど聞こえなくなった。毎年、得点差が開くほどコーチのストレスが高まり、ピッチに怒鳴り声が響く試合がいくつかある。しかし、今大会はそういう声が耳に入ってこなかった。確実に日本サッカーが成長した証だ。

 もちろん、なかにはコーチが強めに指示する声がピッチに響く試合もある。

 だがそういうチームの試合は、決まって選手のテンションがコーチの声の数とともに下がっていく。主体的なプレーから安パイなプレーに切り替わり、最悪の場合には指示待ちのプレーになる。

 数は少ないが、そうしたシーンは今大会でもいくつか見られた。そして、そして、その一つがJアカデミーだったことは残念だ。おそらく読者は地域の街クラブを想像しただろうが、Jリーグの下部組織であっても選手のミスが続くと、イライラした感情をそのまま言葉でぶつけてしまうコーチはいる。毎回来ているJFAの視察団も、その現実を受け止めて改善を促してもらいたい。

 とはいえ、ジュニア世代は数年前より随分コーチングスキルが向上している。

 たとえば、優勝したバディーの南雲伸幸監督はハーフタイムに「ファーストアプローチをしっかりして、そこの観察さえしておけば、長いボールなのか、ショートパスなのかはわかるはずだから」と指示を送り、後半の主導権を握るキッカケをつくった。また、ベスト4まで勝ち進んだセンアーノ神戸の大木宏之監督は、常に選手を落ち着かせる声がけをし、プレーに迷う選手を目にすれば具体的なサポートの声をかけていた。

 この声かけについては地域性、また選手との関係性によって表現の仕方はいろいろあるが、確実に言えるのはチームそれぞれに共通言語があり、戦術に則ったうえで選手とコーチとの間に意思や意図を通じ合わせるチームが増えている。これは練習で技術に特化したトレーニングに終始するのではなく、日頃から戦術的な要素が伴ったトレーニングも行なっていないとチーム内で存在しえないコミュニケーションだ。

 今大会は1991年の蒲町SSS以来、28年ぶりに宮城県代表のベガルタ仙台ジュニア(以下、仙台)がベスト4に勝ち進んだ。これは東北全体としてもポジティブなニュースである。しかも仙台は大会屈指の好チームであり、とくに2枚のセンターバックの質の高さは抜きん出ていた。

 日本のジュニア世代のレベルは着実に上がっている。この流れを加速させるためにも、ジュニアユース(中学生世代)のコーチにこのバトンをしっかり受け取ってもらい、この大会を経験した優秀なタレントがさらに成長するための質の高い指導を期待したい。