12月30日に開幕する高校サッカー選手権大会、2回戦屈指の好カード。それが昌平(埼玉県)対興國(大阪府)だ。両チームに共通するのは、新興勢力ながら、近年多数のJリーガーを輩出していること。毎年プロ選手を輩出してきた注目の興国高校が、選…

 12月30日に開幕する高校サッカー選手権大会、2回戦屈指の好カード。それが昌平(埼玉県)対興國(大阪府)だ。両チームに共通するのは、新興勢力ながら、近年多数のJリーガーを輩出していること。



毎年プロ選手を輩出してきた注目の興国高校が、選手権に初出場する

 昌平からは、松本泰志(広島)、針谷岳晃(磐田)、佐相壱明(大宮)、原田虹輝(川崎)といったJリーガーが誕生し、昨年のインターハイでは全国3位。激戦区の埼玉でも抜けた存在になりつつある。

 一方の興國は、昨年は3名(村田透馬/岐阜、起海斗/山口、中川裕仁/愛媛)がプロ入り。今年もMF田路耀介とDF高安孝幸がツエーゲン金沢への加入が決まっており、タレント揃いの2年生は今年から来年にかけて、7人がJクラブの練習に参加。来年は過去最高の1学年3名以上のプロ入りが有力視されている。

 興國は大会屈指のタレント軍団と呼んでもいいだろう。U-17日本代表FW杉浦力斗は長身でスピードがあり、空中戦、ポストプレーだけでなく、裏への抜け出しも得意。万能型FWで、前線で起点になることのできる選手だ。

 杉浦と抜群のコンビを見せるのが、2年生エースのFW樺山諒乃介。来年からJクラブの特別指定選手として活動する予定で、能力は折り紙付き。中学時代はJクラブや全国優勝経験のある名門校からも誘われていたが、中学時代の先輩・村田透馬が興國に入って急成長したのを見て、入学を決めた。

「自分が全国に連れて行くという強い気持ちで興国に入りました」と話す樺山は、大阪府予選決勝で1得点1アシストを記録し、優勝に貢献。有言実行のエースは全国大会に向けて「ゴール前で相手に脅威を与えるプレーに自信があります。目標は全国優勝です」と意気込んでいる。

 杉浦とのコンビについては「杉浦は足が速いので、相手からすると怖いと思う。(杉浦が)走るとスペースができるので、そこに自分が入るのは、練習から話しながらやっています」と、全幅の信頼を寄せている。

 攻撃陣にはほかにも、興國の全校生徒のなかで足がいちばん速いと言われている、サイドMF南拓都。左サイドで違いを作るMF下村和輝。サンフレッチェ広島のジュニア時代から高い評価を受け、パスに定評のあるMF湯谷杏吏。そしてキャプテンの田路が、中盤を引き締める。

 最終ラインは攻撃センスに溢れる高安とDF橋本丈。センターバックでコンビを組むのは、プロ注目のツインタワー中島超男と平井駿助。GK田川知樹は、樺山とともに来年はJリーグ特別指定選手として活動予定で、驚異的なシュートストップとキックの精度は高校生レベルを超えている。

 各ポジションにタレントを擁する興國は、攻撃的なプレースタイルとユニフォームのカラーリングから「関西のバルセロナ」と呼ばれているが、今年のチームはバルセロナよりもマンチェスター・シティといった様相を呈している。

 欧州サッカーを参考にする内野智章監督も「バルサというよりも、(シティの監督の)ペップ(・グアルディオラ)ですよね。ボールを保持してサッカーをすることを目指しているので、ペップのサッカーは参考になります」と明かし、「樺山には『ケビン・デ・ブライネのポジションをとれ』と言っています」と話すように、ハーフスペースを使いながら両サイドの南や下村が絡み、杉浦が空けたスペースに樺山が入っていくなど、多彩なフィニッシュの形を持っている。

 また、GK田川は正確な左足のキックで攻撃の起点になれる選手で、プレースタイルはマンチェスター・シティのGKエデルソンと重なる。ボールを保持したいときは、センターバックの中島と平井にボランチの田路が加わってパスを回し、GK田川の正確なキックを起点にビルドアップしていく。高校サッカーではなかなか見ることのできないスタイルだ。

 初戦の相手、埼玉代表の昌平について、内野監督は「練習試合をしたことがないのでよくわからないですが、かなり強いと聞いています。選手権自体が初めてなので、火星に降り立って、まったく知らない火星人と試合をするみたいな感じですよ(笑)」と関西らしいユーモアで煙に巻くが、チームの仕上がりについては「大阪の決勝以降、攻撃に関してはだいぶ成熟してきた」と自信を覗かせる。

 今大会のトーナメント準決勝までの同じ山には、青森山田、富山第一、前橋育英、国学院久我山など、優勝、準優勝経験を持つ強豪が勢揃い。文字どおりの激戦区となった。

「ほんまに強敵ばかりですよね。いいフットボールをするチーム同士の試合を多くの人が見ることで、高校サッカーの方向性が変わってくれたらなと思います。いい選手がいいフットボールをする高校に行くことによって、Jユースにもプレッシャーをかけられますし、ライバルがいることで競争心が煽られて、サッカー界全体として成長するわけですから」と、日本サッカー全体の育成を見据えて話す。

 注目を集める大阪のタレント軍団は、選手権で着るジャージとベンチコートに、黄色と緑の初心者マークを入れた。「大阪人としてユーモアと笑い、謙虚さを忘れないように」(内野監督)という狙いだ。

 昌平との初戦は多くの観客を集める試合になりそうだが、大阪特有のノリとユーモア、そして激戦区を勝ち上がったプライドを胸に、初出場初優勝の偉業にチャレンジする。