課題を3Dで閲覧できるOnlineObservation。改めてこれまでの歩みを教えてください。

「2017年2月、生まれては失われていく課題を未来に残していくためのサービスとして立ち上がりました。以前に比べるとクライミングジムの課題の寿命が短くなっていると感じていて、でも課題を作る労力は変わらず大変なはずなので、すごくもったいないなと。ここを見れば、あの時のあの課題を必ず閲覧できるというようなライブラリを作りたいと思った。どうしたら効率よくアーカイブできるか考えた結果、3Dスキャンという形に行き着きました」

その後、大会での活用にも展開されていきます。

「2017年7月にあったadidas ROCKSTARS TOKYO、公式戦では2018年2月のボルダリングジャパンカップから大会での取り組みがスタートしました。ただしいずれも終了後にアーカイブするのみで、同年6月のボルダリングW杯八王子大会から事前に課題を撮影して3Dスキャンするフェーズに入っていきます」

この時から、サイトにアクセスすれば大会当日に課題を見られるようになったと。

「はい。さらにSTARTやTOPの位置を説明するオブザベーション動画も作るようになり、会場ビジョンやTV中継、国際スポーツクライミング連盟(IFSC)のYouTube中継で流れるようになりました。様々な方の協力があり、ここまで来ることができましたね」

そして今年8月の世界選手権。これまでの取り組みのほか、リードでリアルタイムに他選手の成績(高度)が表示される中継映像が印象的でした。


「これはAR(Augmented Reality=拡張現実)中継と呼ばれるものです。現実世界の映像にリザルトというものを拡張して、あたかも現実に存在しているかのように見せる。カメラが動いても、ホールドに付随する他選手の成績表示はそのまま固定されます」

これによって非常に分かりやすい観戦が可能になりましたよね。導入にはどのような経緯が?

「昨年の世界選手権インスブルック大会が大きかったと思います。リードで同じAR中継があり、分かりやすいと話題になりました。日本山岳・スポーツクライミング協会(JMSCA)やNHKから我々の世界選手権でも実施したいという話があり、ではやりましょうと」

ボルダリング壁は回り込むように複数枚撮影すれば3Dデータ作成が可能だと本誌第6号でも伺いました。リードではそこに縦の動きが入る?

「そうですね、縦の撮影が入るくらいで、方法はほとんど一緒です。ドローンを飛ばして撮影します。撮影枚数は大体50枚ほど。一般のジムではテストするのが難しいので、自社で建てたスタジオの壁でテストを重ねました。同年12月に加須で行われた全国高等学校選抜選手権大会でドローンでのスキャンおよび中継テストを行い、さらに開発を進めて、AR中継を実施したのは今年3月のリードジャパンカップからです」

ARでの成績表示にあたり意識したことは?

「クライマーの動きの邪魔にならないことはまず大前提。あくまでも主役は登っている選手なので、あとはシンプルに情報だけ上手く伝えることです。たとえば選手名は黒背景ですが、ホールドに近づくにつれてその線は透明にしています。また、視認性を高めるためにホールドを囲んでいるサークルは回転させるようしました。インスブルック大会はもっと派手だったんですが、我々のデザインは極力シンプルで、あまり味を出さないように心がけています」

他のスポーツ中継から参考にした部分は?

「スポーツでのAR中継がどんどんメジャーになっている中で僕はヨットを参考にしました。ゴールまであと何mなのか海上にエリア表示をしたり、どのヨットがどのチームなのかを指し示すような映像です」

世界選手権での取り組みで印象に残っていることは?

「五輪代表内定の瞬間に、我々のAR映像が活躍したことですね。野口啓代選手が内定を獲得したのは、コンバインド最終種目のリードでヤンヤ・ガンブレット選手が野中生萌選手の高度を抜いた時だったんです。NHKの中継で、その時にこの技術が使われました。4年に1度の大きな出来事が決まった瞬間を、最も分かりやすく説明していて、このワンシーンだけでも価値があるなと感じました」

視聴者も分かりやすくその瞬間を迎えられますよね。

「状況をグラフィカルに捉えられると、ガンブレット選手が野中選手を抜いた、すなわち野口選手が五輪内定、とうことがストンと分かりやすかった。昔の中継は競技の垂れ長しのような感じで、リザルトも何も分からない状態だったので、ここまで深い解説が成立する質の高い中継がスポーツクライミングでも出来るようになったと感慨深かったですね(笑)」

 


オブベーション動画の一例。START位置やTOPまでのルートを映像で紹介する。

今後の目標を教えてください。

「まずはJMSCAとの協力関係を密にしていくことです。今はまだジャパンカップでの取り組みも2年だけなので、安定してサービスを供給していけるようにしたい。それと、世界中の方々にも利用してもらうこと。IFSCをはじめ、今はドイツとアメリカの国内選手権などで取り入れてもらうべく、関係づくりをしている最中です。2020年の東京オリンピックにも、何らかの形で関われたらいいですね」

 
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