J1参入プレーオフ1回戦。3位・大宮アルディージャと6位・モンテディオ山形の一戦は、2-0で山形が勝利を収めて2回戦に進出を果たした。アウェーで戦ったうえ、引き分けの場合はホームで戦う成績上位チームが勝ち上がるというレギュレーションのハン…

 J1参入プレーオフ1回戦。3位・大宮アルディージャと6位・モンテディオ山形の一戦は、2-0で山形が勝利を収めて2回戦に進出を果たした。アウェーで戦ったうえ、引き分けの場合はホームで戦う成績上位チームが勝ち上がるというレギュレーションのハンデを見事に押しのけた格好だ。



今年もJ1昇格プレーオフ1回戦で敗退した大宮アルディージャ

 下位チームが一発勝負で上位チームを破るという点では、今回の山形もプレーオフの風物詩ともいえる”下克上”を成し遂げたことになる。

 ホームで戦い、引き分けでも勝ち上がることができる上位チームは、そのアドバンテージが逆にプレッシャーとなり、守りの意識が強くなりすぎて戦い方を難しくする。これは、過去のJ1昇格プレーオフでもよく語られるフレーズで、実際、上位チームが敗れたときはその定説が敗因としてクローズアップされるケースが多い。

 そういう意味では、結果的にこの試合もその典型として数えられる。しかし、試合の中身に目を凝らしてみると、それ以上に負けた大宮の敗因が浮き彫りになった試合だった。

「本来であれば、ストレートイン(2位以上で自動昇格)できる節もありました。でもなぜか、上のほうにいくと星を落としてしまう試合が続きました。それがメンタルの弱さなのか、サッカーの問題なのかはなかなか判断できないところですが、ある意味、そこは今季のチームの習慣になってしまっていたと思います」

 試合後の会見でそう語ったのは、負けた大宮の高木琢也監督だ。

 たしかに今季の大宮は、首位に立つことはなかったものの、4度も自動昇格圏の2位につけながら、いずれもその順位を維持することができなかった。とりわけシーズン終盤は、首位の柏レイソル戦も含めて3連勝を記録しながら、栃木SC戦、アルビレックス新潟戦、ツエーゲン金沢戦と、3連続ドローと失速。不調のまま3位でリーグ戦を終え、プレーオフに臨むことを強いられた。

 ただ、それは山形も同じだった。

 シーズン前半戦で4度も首位に立ちながら、後半戦に急ブレーキ。それでも2位まで盛り返したが、最後の5試合で3敗を記録して6位に転落した。しかも、最終節では残留争いに巻き込まれていたFC町田ゼルビアに逆転負けを喫するなど、最悪の状態でこの試合を迎えた。

 では、不調同士の対戦で明暗を分けたポイントはどこにあったのか? そこで浮上するのが、両チームとも決定機を作れず乏しい内容に終わった、前半45分間の受け止め方の違いである。

 まず、それを誤算と感じていたのは高木監督のほうだった。

「3位でプレーオフに臨むということは、ホームで戦えるうえにドローゲームも勝利という状況のなか、(選手たちには)ドローで勝つのではなく点を獲って勝つんだと今週ずっと言ってきたのですが、あまり響かなかったのかもしれない。あるいは、何かを恐れているのか、自信がないのか、相手が上回っていたのか。この時点ではわからないですけど、結果的にはその部分が表に出てしまった」

 つまり、前半の大宮は”笛吹けど踊らず”状態だったことになる。

 実際、セットプレーからのシュート2本のみに終わったことに焦りを感じた指揮官は、アドバンテージを維持した状態でありながら先に動き、後半開始から1トップのロビン・シモヴィッチに代えてファンマ・デルガドを投入。タイプの異なるCFの起用によって、停滞する攻撃の活性化を図っている。

 一方、前半シュート0本で終わっていた山形の木山隆之監督は、ゴールを奪えなければ敗退するという状況にもかかわらず、焦りはなかった。

「我々としては、最悪スコアレスでも後半に勝負をかけていくということはチームで共有していたので、そこでパワーを使って1点決めることができたのが大きかった」

 指揮官がそう振り返ったとおり、後半55分に山岸祐也を、62分にジェフェルソン・バイアーノを投入すると、69分には坂元達裕のドリブルが起点となって、最後は途中出場の山岸がゴール前でボレーシュート。この試合で初めてのチャンスを作ることに成功し、明らかに試合の流れが山形に傾き始めた。

 ただ、大宮の高木監督も70分にダヴィッド・バブンスキーを起用し、引き続き攻撃の活性化を狙う選手交代策を打った。しかし、その直後の73分、山形が得意とするコーナーキックから大宮のイッペイ・シノズカが痛恨のオウンゴール。これにより、先手を打ったはずの交代策は裏目と出た。

 あとがない大宮ベンチは、79分にボランチの石川俊輝を下げて切り札の大前元紀を前線に投入。茨田陽生を一列下げて、より攻撃的な態勢でゴールを目指した。だが、またしてもその目論見は打ち砕かれる。

 3枚目のカードを切った直後の82分、山形はこの試合で最も輝いていた坂元のパスが起点となり、右から左へと展開。最後は山岸がネットを揺らして追加点を奪った。山形はとどめの2ゴール目を決め、2回戦進出を確定させることに成功したのである。

 結果的に高木監督の采配は裏目に出たわけだが、プランどおり攻撃的に戦えなかった前半戦のパフォーマンスを見れば、山形ベンチよりも先に動かざるを得なかったのは仕方のないところ。それよりも、シーズン終盤の失速を含め、肝心なところで星を落としてしまう悪しき習慣を最後まで変えられなかったチームマネジメント自体を反省すべきだろう。

 なぜ、笛を吹いても選手は踊らなかったのか--。この試合だけを切り取れば典型的なプレーオフの下克上ゲームだが、結局は大宮の抱えていた問題点があらためて浮き彫りになったのが、この敗戦だったといえる。

「今シーズンを通して考えてみても、自分たちがボールを握って相手が嫌なことを仕掛けることはできていなかったので、こういうプレッシャーのかかったなか、やっぱりそれはできなかった。それが最後の最後でも出てしまった」

 試合後の茨田のコメントが敗因を集約していた。さらにいえば、石井正忠前監督のもとで臨んだ昨季のJ1参入プレーオフ1回戦での敗戦を生かすことができなかったことも、チームとして大いに反省しなければならない。

 財政規模、選手層、経験と、あらゆる面でJ1昇格が義務づけられる大宮が乗り越えなければならない大きな壁。それが明確になったこの敗戦を、今度こそ教訓として生かすことができるか。来季はクラブとして真価が問われるシーズンになる。