「今のプレースタイルを信じて戦い続ける」 FC東京の長谷川健太監督は、選手たちにそう言い聞かせて精度を高めてきたという。 4-4-2で前線からプレスで追い、先手を打つ。走力の高い2トップが、相手の裏やサイドにボールを呼び込み、ラインを押し下…

「今のプレースタイルを信じて戦い続ける」

 FC東京の長谷川健太監督は、選手たちにそう言い聞かせて精度を高めてきたという。

 4-4-2で前線からプレスで追い、先手を打つ。走力の高い2トップが、相手の裏やサイドにボールを呼び込み、ラインを押し下げる。リードできたら、ブロックを作って守り、誘い込んで反撃に転じる--。派手さはないが、実直。強度と練度で相手を上回ってきた。そのプレーを続ける中、久保建英(現マジョルカ)、橋本拳人、永井謙佑、室屋成らが代表にも選ばれ、成長していった。

 しかしこの日、長谷川FC東京はあと一歩で勝利には届いていない。首位を走る横浜F・マリノスに突き放された。最終節、悲願の優勝には「4点差以上の勝利が条件」で厳しくなった。



ホーム最終戦で浦和レッズと引き分けたFC東京イレブン

 11月30日、味の素スタジアム。2位のFC東京は、13位で残留争いの渦中にある浦和レッズと対戦している。序盤から、FC東京は”いつものプレー”を最大限に出してきた。強度の高いプレスで、容易にビルドアップを許さない。立ち上がり10分は、まさに猛攻だった。

 5分、永井がゴールライン近くまで侵入して深みを作って、エリア内に戻すと、ディエゴ・オリヴェイラがシュート。GK西川周作に阻まれると、橋本がエリア外から狙い、これはDFにブロックされた。続いて6分、中盤で橋本がつつき出してボールを奪ってのカウンター。三田啓貴からのパスを受けたオリヴェイラがGKと1対1になるが、再び防がれる。8分には、オリヴェイラがプレスバックして取り返したボールで逆襲に転じ、三田からのパスを永井がシュートするも、相手DFのタックルにブロックされた。

 FC東京は、今シーズンの”らしさ”を集約させていた。しかし、先制することはできなかった。

「東京が最初は前から出てくるのは予想していたので。最初さえ凌げれば、あとは4-4-2でブロックを作って下がると思っていました」(浦和・鈴木大輔)

 1点でも入れば、FC東京はペースを握っていただろう。先制逃げ切りが、勝ちパターンだ。しかし、序盤の勢いは徐々に薄れた。

「15~20分までは、相手が前からプレスにきたことで取られたりもしましたが、この飛ばし方では、(90分は)続かないと思っていたので。選手が落ち着いてやってくれました」(浦和・大槻毅監督)

 それでも優勢なのはFC東京だったが、30分を過ぎてアクシデントが起きた。チーム最多得点のオリヴェイラが接触プレーで足を痛め、ピッチに倒れる。思った以上に長い時間の治療で、顔をゆがめたままピッチに戻るが、足を引きずる様子で、プレーできる状態ではなかった。欠かせないエースだが、明らかに交代の判断は遅れた。

 これで浦和が流れをつかむ。FC東京陣内にどっと攻め入り、右サイドを深く破る。その流れで得た右CKだった。ショートコーナーから山中亮輔が左足で狙い、GK林彰洋にブロックされたものの、エリア内にこぼれたボールをマルティノスが押し込んだ。

 FC東京は一瞬のスキを突かれた。マルティノスのマーカーはオリヴェイラだった。このあと、オリヴェイラは無念さか、涙を流してピッチを去っている。

 ただ、FC東京は先制点もエースも失いながら、優勝争いを続けてきた地力を示す。

「失点で、自分たちがネガティブになることはなかったです。ハーフタイムには、『まずは1点返そう』と言っていました。自分たちのやり方でチャンスは作ることができていたので……」(FC東京・橋本)

 後半、FC東京は永井も負傷で失ったが、怯んではいない。室屋が果敢に右サイドを攻め上がり、橋本がエリア外から飛び込み、ヘディングで狙う。浦和のシュートを2本に抑え、自らは7本も打っているのだ。

 69分だった。左CKから森重真人がシュートしたこぼれをナ・サンホが打ち、これはGK西川の好守に止められたものの、さらにこぼれ球を途中出場の田川亨介が叩き込んだ。

「途中で入る時には、何ができるかは考えていて、今日は(得点が必要で)イケイケだったので、入りやすかったです」(FC東京・田川)

 FC東京はどうにか追いついた。しかし、消耗も激しかったか。無理をしない浦和を攻め崩せるだけの余力は残っていなかった。今季前半戦、MVPに近い活躍を見せた近い久保のように、一瞬で流れを変えられる選手も欠いていた。

「チャンスがありながら、決めきれなかった」

 試合後、痛々しく足を引きずるオリヴェイラは言葉を振り絞ったが、この試合だけを見れば、それが結論と言える。

 しかし今シーズン、チームの成長は選手の成長につながり、選手の成長はチームの成長につながってきた。長谷川FC東京はひとつの戦い方を作った。それは功績だろう。

「何とか最終節まで望みをつないだ。踏ん張って4点差で勝たないと逆転できない状況ですが、可能性がある限りは選手と一緒に戦いたい。今シーズン、すばらしい戦いをしたチームだと思うので、有終の美を飾ろうと」(FC東京・長谷川監督)

 12月7日、FC東京は横浜FMの本拠地、日産スタジアムで雌雄を決する。