盛岡四が見た怪物・佐々木朗希(前編) 今夏、佐々木朗希(大船渡)は投げずして岩手大会決勝で敗れた。最速163キロの怪…

盛岡四が見た怪物・佐々木朗希(前編)

 今夏、佐々木朗希(大船渡)は投げずして岩手大会決勝で敗れた。最速163キロの怪物は、今年に入って投手として公式戦無敗のまま高校野球生活を終えることになった。そんな佐々木を土俵際まで追い詰めたのが、大船渡と4回戦で対戦した盛岡四である。盛岡四から見た佐々木朗希はどんな投手だったのか。盛岡四サイドの視点で、延長12回の死闘を振り返ってみたい。



小学生の時にも佐々木朗希と投げ合ったことがある盛岡四のエース・菊地芳

 2018年夏の岩手大会を2回戦で終え、新チームが発足した夏のある日。盛岡四の及川優樹監督は選手を前に言った。

「来年の夏は、大船渡と3回戦でやるからな」

 予言じみた言葉に、選手は半信半疑だった。正捕手の横山慶人は「絶対ないだろう」という言葉を飲み込んだ。

 及川監督に確信があったわけではない。それでも「お互いに順調に伸びれば、ベスト8クラスで戦う可能性が高い」という計算があった。

 盛岡四の正式名称は「盛岡第四高等学校」。「だいよん」ではなく、「だいし」と読むのがポイントである。地元では「四高(しこう)」の愛称で親しまれる、県立進学校だ。

 国公立大への進学を目指す生徒も多く、学業面のハードルは高い。その一方で、野球部は1994年夏に甲子園に出場した実績がある伝統校でもある。そして、新チームの四高は不思議な力があった。エース右腕の菊地芳(かおる)が「自分たちは歴代でも個性が突出した代らしいです」と語るように、部員は変わり者だらけだった。

 菊地が「誰がどう見ても普通じゃない」と語る左打者の高見怜人は独特の感性を持ち、天才的なバットコントロールを武器にする。3番・ショートを任される岸田直樹はいかにも線が細く頼りなく見えるが、スタンドまで放り込む意外な長打力がある。そしてエースの菊地にしても、捕手の横山に言わせれば「思い切り首を振って投げるのに、不思議とコントロールがいい」という変則的な一面があった。そんなひとクセもふたクセもあるチームが波に乗ると、凄まじい力を発揮した。

 春の県大会では、甲子園帰りの盛岡大付を3対2で破る番狂わせを演じ、準優勝。東北大会にも出場した。夏の岩手大会が開幕する前には、四高は優勝候補の一角に挙げられていた。

 迎えた夏。抽選会の結果、順当に勝ち上がれば四高にとって3戦目となる4回戦で大船渡と対戦することがわかった。及川監督の予言がほぼ的中した形だった。及川監督はあらためてこう言った。

「日本で一番のピッチャーに挑戦しよう」

 四高はさっそく佐々木対策に乗り出した。四高にはピッチングマシンが3台あり、それを駆使した。

 1台目は最速170キロまで出る「トップガン」と呼ばれる最新マシンで、160キロ以上にセットした。部員たちはマシンを設定しながら「本当にこんなボールを投げる人間がいるのか?」と、にわかには信じられなかった。

 2台目は変化球対策。佐々木の高速で大きく曲がるスライダーを想定して、130キロ台後半のスピードに設定した。

 そして3台目は、四高のチームカラー同様にクセ者だった。3つのローターでボールを弾くタイプのマシンで、選手たちは「スリーローター」と呼んでいた。だが、このマシンは老朽化が進んでおり、下部のローターがうまくかみ合わないことがある。その際、ボールが速球ほど回転せずに鋭く落ちる現象が起きた。

 このスリーローターの特徴を生かし、佐々木のフォーク対策に当てたのだ。基本的には150キロのストレートが放たれ、ローターがかみ合わないときだけ鋭く落ちる。このボールは打とうとせず、見送れたら「ナイスセン(ナイス選球眼)!」と褒め合った。

 この3台のマシンによる特訓によって、四高の選手たちはだんだんコツをつかんでいく。当初はバットの芯を外して手をしびれさせていたが、次第に鋭い打球が飛ぶようになっていったのだ。横山はたしかな手応えを感じていた。

「スピードに慣れてライナー性の打球を打てるようになって、自信がついていきました。スイングスピードもどんどん上がっていって、130キロくらいの球は遅く感じるようになりましたね」

 2019年7月21日、四高と大船渡の4回戦は岩手県営野球場で行なわれた。試合前、及川監督は選手を前に「勝つとしたら3対2だ」とゲームプランを語った。

 まず力を発揮したのは、先発マウンドに上がった菊地だった。2試合連続コールドで勝ち上がってきた大船渡打線にも、菊地は「朗希は全国的に騒がれているけど、打線は岩手の公立校と考えればウチと同じ」と強気だった。

 菊地のストレートは最速138キロ。遅くはないが、佐々木の剛球に見慣れて、全国の強豪と練習試合をこなしている大船渡には「打ちごろ」かもしれない。そこで自信のあるフォークなど変化球を駆使することに決めた。とくに効力を発揮したのが「6割のストレート」。この球種は夏の大会直前に偶然生まれた「隠し球」だった。

「春に準優勝したことで、いろんな取材があって『撮影するからピッチングを見せてほしい』と言われることが多かったんです。全部本気で投げたら肩が持たないので、6割くらいの力で投げたら今まで以上にボールが動くことがわかったんです。横山とも『これは使えるな』と話して、深く握ってみたり工夫しました」

 6割のストレートは、シンカーのように左打者の外角へと逃げていくクセ球だった。捕手の横山が「打ち取られたバッターが不思議そうな顔をする」という新球を要所で使い、時にはインコースにストレートを投げ込むことで大船渡打線に的を絞らせなかった。

 菊地にとって、佐々木と投げ合うのは初めてではなかった。小学6年時、県大会で対戦した際には菊地が投げ勝っている。とはいえ、1対1の同点で最後は抽選によって幸運にも勝利したため、本人に「投げ勝った」という意識はない。菊地は「当時から朗希は体が大きくて、とにかく球が速かったです」と振り返る。6年ぶりの投げ合いに、気持ちが乗っていた。

 問題は攻撃である。18.44メートルの距離を挟んでマウンドに立つ佐々木は、やはり大きかった。

 6番で起用された横山は、左打席から佐々木の生きたボールを体感していた。

「トップガンで目を慣らしたから、スピードはそこまで速く感じない。でも、キレがものすごいな……」

 ストレートを打ちにいっても、押し込まれてすべて三塁側へのファウルになる。そこへ140キロ前後のスライダー、フォークを混ぜられるとお手上げだった。1打席目はファーストフライ、2、3打席目はいずれも変化球で空振り三振に終わった。

 それでも、チームは2番の高見、3番の岸田がヒットを放つなど3回まで4本のヒットを佐々木に浴びせた。佐々木対策の効果を感じさせたが、4回以降はノーヒット。イニングごとに佐々木という存在の大きさを実感することになった。

 5回まで大船渡打線を2安打無失点に抑え込んだ菊地だが、6回に初めてピンチを迎える。先頭の1番・及川惠介を三塁前に転がるゴロに打ち取ったものの、これが内野安打になり、さらに悪送球で二塁まで進まれる。続く熊谷温人にはライト線にタイムリー二塁打を浴び、先制点を許した。さらに途中から3番に入っていた鈴木蓮にもライト前ヒット。4番の佐々木は二塁ゴロに打ち取ったものの、併殺崩れの間に2点目を失った。

 打たれた菊地は「疲れがあったとは思いませんが、熊谷に打たれたボールは少し力が入りました」と振り返る。これ以上の失点は命取りになる四高は、8回から技巧派の2年生左腕・山崎諒を投入。及川監督は「継投は予定どおり。1つのミスで1点失うと困るような、相手にプレッシャーを与える展開にしたかった」と、まだまだ勝負をあきらめていなかった。

 そして0対2のまま迎えた9回裏。四高にとって大きなドラマが待ち受けていた。

(後編につづく)