挨拶代わりの一発--。そう言ってもいいだろう。U-20サンパウロとの練習試合で、U-22日本代表デビューを果たした食野亮太郎(ハーツ)のことだ。

 キックオフ直後からディフェンスラインと駆け引きしながら裏を狙っていた1トップの食野に、前半13分、シャドーの三笘薫(筑波大)からパスが出る。ボールを収めた食野が鋭い動きでDFをかわして右足を強振すると、ボールはGKに当たってそのままゴールネットに吸い込まれた。



U-22日本代表に初めて招集された食野亮太郎(前列中央)

 今遠征の本番は、4日後に組まれたU-22ブラジル代表との親善試合。サンパウロ戦はあくまでも練習試合に過ぎないが、「初めての試合なので、みんな僕のことをまだあまりわかっていないと思う」と語っていた食野にとって、初陣での初ゴールは”食野亮太郎とは何者か”を知ってもらううえで、大きな意味を持つに違いない。

 夏まで所属したガンバ大阪では、J3でプレーしたU-23時代も含め、ゴールに向かう姿勢と得点感覚に定評があった。そうした能力と将来性が買われ、今夏マンチェスター・シティの一員となり、現在はレンタル先のスコットランドのハーツで研鑽を積んでいる。出場2試合目となった9月14日のマザーウェル戦では、初ゴールもマークした。

 そのため、「代表に選ばれてもおかしくない」という声が根強くあったが、本人は謙虚な姿勢を見せている。

「世間は『やっと(選ばれた)か』っていう感じだったみたいですけど、僕自身はそうは思っていなくて。今までと同じようにサッカーに取り組んできて、最近たまたまいいプレーができていたから呼んでもらえたのかなって」

 だが、その後の言葉に、ストライカーとしてのプライドがにじみ出ていた。

「これまではホンマに選ばれたことがなかったので、代表がどういうところかわからなかったんですけど、呼んでもらったからには爪痕を残して帰ってやろう、という気持ちはありましたね」

 プレーしたのは前半の45分間。そのうち、少なくとももう1点は獲れるチャンスがあったため、「ああいうのを決めないと、この先、生き残れない」と悔やんでいたが、爪痕をひとつ残したのは確かだろう。

 さらに、食野がチームにもたらしたものがある。チーム内競争の活性化だ。

 狭いスペースに割って入ってフィニッシュまで持ち込むスタイルは、1トップを争う小川航基(水戸ホーリーホック)、上田綺世(鹿島アントラーズ)、前田大然(マリティモ)らのそれとは異なるもの。「ハーツでは1トップもシャドーもやっています」と語るように、1.5列目でシンプルにはたいて飛び出すプレーも得意だ。

 また、シャドーのポジションは、三好康児(アントワープ)、森島司(サンフレッチェ広島)、安部裕葵(バルセロナB)、さらには久保建英(マジョルカ)、堂安律(PSV)もいる激戦区。だが、よりアタッカー色の強い食野は貴重な存在だろう。

 ポジション争いの活性化をもたらしたのは、食野だけではない。

 ボランチとして先発出場した田中駿汰もそのひとり。大阪体育大の4年生で、6月のトゥーロン国際大会で初めてU-22日本代表に選ばれ、2度目の選出となった今回、後半29分に退くまでゲームをコントロールした。

「それまで東京五輪は意識してなかったですけど、トゥーロンのメンバーに入って、自覚と責任を持つようになりました。トゥーロンで『代表に入っても普通にやれる』と感じられたのも大きいですね」と語るボランチは、サンパウロ戦でも丁寧にボールを散らしながら、ときおり見せる鋭い縦パスで攻撃にアクセントをもたらした。

 183cmの長身に加えてボールコントロールが的確で、センターバックも高いレベルでこなせるスタイルは、中山雄太(ズヴォレ)、板倉滉(フローニンゲン)と共通するものがある。来季加入が内定している北海道コンサドーレ札幌でポジションを掴み、さらなる成長を遂げれば、すでにA代表を経験するふたりの間に割って入ってくるかもしれない。

 キャプテンマークを巻いて3バックの左として先発した渡辺剛(FC東京)と、後半から右ウイングバックに入った菅原由勢(AZアルクマール)も、このチームでのデビュー戦だった。渡辺はコーチングやカバーリングで、菅原は安定した守備から迫力のある攻め上がりで、それぞれ持ち味を発揮した。

「新しい選手が何人かいましたけど、トレーニングもそんなにたくさんやっていないなかで、チーム戦術を理解したうえで、それぞれの持ち味を出してくれた。非常によかったと思います」と、横内昭展監督代行も手応えをのぞかせた。

 U-20サンパウロは前日にU-20グレミオとの公式戦を行なったため、この日出場したのはサブ組だった。日本が10近くの決定機を築いたのに対し、サンパウロはほぼゼロ。もう少し点差を開かせたいところだったが、U-22ブラジル戦であらためて見てみたいと思わせる新戦力が何人もいたのは間違いない。