試合後のスタンフォード・ブリッジは、温かい拍手に包まれていた。

 9月22日に行なわれたプレミアリーグ第6節、チェルシー対リバプール戦。フランク・ランパード監督率いるチェルシーはホームで1-2の敗戦を喫したが、サポーターは指揮官と選手たちに声援を送っていた。



エースの座に君臨している21歳のタミー・エイブラハム

 しかも、5日前に行なわれたバレンシアとのチャンピオンズリーグ(CL)グループステージ第1節も、0-1で敗戦。ホームで2連敗を喫したものの、スタンドからブーイングは聞こえてこなかった。

 しかも、ここまでホームで公式戦4試合を戦い、2分2敗でいまだ勝利なし。リーグ6試合を終えて喫した計13失点は、プレミアリーグ開始以降のチェルシーでは最多の数字だ。

 それでも、サポーターはランパード政権に温かい眼差しを向ける。「今季は我慢と辛抱の1年」と、ファンも相当な覚悟ができているのだろう。

 チェルシーがFIFAから「移籍期間における2度の補強禁止処分」を科せられたのは、今年2月のこと(※)。その後、マウリツィオ・サッリ監督(現ユベントス)が退団し、チームの絶対的エースであるエデン・アザールもレアル・マドリードに飛び立った。

※18歳未満の選手の国際移籍に関する規定に違反したとして、今年2月にFIFAの規律委員会がチェルシーに補強禁止の処分を言い渡した。2019年夏と2020年冬の移籍市場で新規の選手登録が禁じられ、チェルシーが次に新たな選手を獲得できるのは2020年夏となる。

 ランパードがチェルシーの監督に就任したのは、そんなタイミングだった。昨シーズンに指揮を執ったダービー・カウンティ(英2部)での1年しか監督経験のないランパードにとって、これ以上ないと言っていいほど難しい舵取りを迫られることになった。

 ランパード政権が志向するのは、ダイナミックさとアグレッシブさが共存するサッカーだ。ポゼッションにも重きを置いているが、チャンスと見れば縦に速い攻撃を仕掛け、ロングフィードも積極的に取り入れている。パスサッカーを信条としたサッリ前政権に比べると、攻撃のスピードギアがひとつ、ふたつほど上がった印象だ。

 そんな新生チェルシーで目につくのが、躍動感あふれる若手選手である。補強禁止処分により、それまでレンタル移籍でチェルシーを離れていた若手を呼び戻し、ランパード監督は積極的に彼らを起用している。とくに、FWタミー・エイブラハム(21歳)やMFメイソン・マウント(20歳)、DFフィカヨ・トモリ(21歳)など下部組織出身の若手の台頭が目覚ましい。

 昨シーズンに在籍したアストンビラ(当時英2部)でリーグ2位の25ゴールを叩き出したエイブラハムは、クラブの1部昇格に大きく貢献。チェルシーでもリーグ第6節まで7ゴールと好調だ。

 194cmの長身を生かしながら柔らかいボールタッチのプレースタイルは、2006年から2009年までアーセナルに在籍したエマニュエル・アデバヨール(現カイセリスポル)とも重なる。ペナルティエリアで勝負強さを発揮しており、フランス代表FWオリビエ・ジルーをベンチに追いやって、早くもエースの座に君臨している。

 チェルシーに6歳で加入したマウントは、昨シーズンのレンタル先であるダービー・カウンティでランパード監督の薫陶をひと足早く受けた。全体練習後に、指揮官とマンツーマンでペナルティエリア内へ侵入するタイミングやフィニッシュワークなどのトレーニングに励み、MFとしてひと回りもふた回りも成長。イングランド代表でも9月に行なわれた欧州選手権予選で初キャップを刻み、成長の階段を着実に上っている。

 マウントと同じく、トモリも昨シーズンはレンタルでダービー・カウンティに在籍し、ランパードの指導を受けた。今年5月に行なわれたチャンピオンシップ(英2部)プレーオフの対アストンビラ戦で、筆者が最も印象に残ったのは、このトモリだった。CBながら足技に優れ、ロングフィードも正確。裏を取られても素早くカバーに入るスピードと俊敏性があり、リバプール戦でもモハメド・サラーを上手に抑えていた。

 さらに、アキレス腱断裂で離脱中のイングランド代表MFカラム・ハドソン=オドイ(18歳)や、将来性の高い右SBリース・ジェームズ(19歳)など、チェルシーにはユース出身の若手有望株が実に多い。彼らとしても、補強禁止処分で広がったファーストチームの出場チャンスを生かし、選手として飛躍したいところだ。

 リバプール戦後、ランパード監督は次のように語った。

「我々はエナジーと持ち味、たくましい精神力を示すことができた。この点で、チェルシーはリバプールより優れていたと思う。だからこそ、試合に敗れたあとも、観衆が拍手を送ってくれたのだろう。今は前に進むしかない。今日のような試合を毎週見せていけば、いずれホームで勝利できる。

 補強禁止処分は、チェルシーにとってマイナス要素と捉えられている。もちろん、短期的に見ればそのとおりだ。昨シーズンのナンバー9(=ゴンサロ・イグアインとアルバロ・モラタ)もいなくなった。その事実は変えることができない。

 しかし、長期的な視点に立てば、話は変わってくる。たくさんの若手が先発メンバーに名を連ねるようになった。(フィカヨ・)トモリ、メイソン(・マウント)、タミー(・エイブラハム)、カラム(・ハドソン=オドイ)、ルベン(・ロフタス=チーク)らの若い選手たちとともに、ビジョンを持って戦っていけば、補強禁止処分もプラスになるだろう。そう願いたい」

 懸念は、堪忍袋の緒が切れやすいオーナーのロマン・アブラモビッチが、どこまで踏ん張れるか。英メディアによると、補強禁止処分の影響に一定の理解を示しながらも、「来季CL出場権が手に入るリーグ4位以内」をノルマに設定していると言われる。2003年6月のクラブ買収から次々と監督の首をすり替えてきた過去があるだけに、ロシア人オーナーのサポートも必要になるだろう。

 就任1年目での「補強禁止処分」は、大きな障壁になるのは間違いない。その一方で、若手育成の視点に立てば、これ以上大きなチャンスもない。果たして、「災い転じて福となす」とできるか。ランパード監督の手腕に注目だ。