「身長の高さ」 逆転されて敗れたあと、その差を問われた愛媛FCの川井健太監督は、そう言って会見場の笑いを誘った。そして真面目な顔に戻ると、こう続けた。「相手はカウンターの質が高かったです。ほぼシュートまで持ち込んでいた。自分たちも数はあ…

「身長の高さ」

 逆転されて敗れたあと、その差を問われた愛媛FCの川井健太監督は、そう言って会見場の笑いを誘った。そして真面目な顔に戻ると、こう続けた。

「相手はカウンターの質が高かったです。ほぼシュートまで持ち込んでいた。自分たちも数はありましたが、シュートのひとつ前で引っかかってしまうことが多かった。精度よりも判断の差で、頭の切り替えですが、そこにはフィジカル的な強さの要素もあって、スタジアムの雰囲気も含め、作り上げてきたものに敗れました」

 川井監督は、完敗を認めている。

 では、逆転勝利を収めた柏レイソルは盤石なのか。



J1昇格に向けて、J2で首位を走る柏レイソルのネルシーニョ監督

 9月22日、三協フロンテア柏スタジアム。台風が日本列島に近づくなか、J2で首位を走る柏は、15位の愛媛を迎えていた。戦力差は明白で、局地戦では優位に立った。ただ、攻撃は相手を引き付ける動きが少なく、コンビネーションも乏しく、散発に終わる。守備も前線のプレスは場当たり的で、中盤には広大なスペースが生まれ、サイドも後手に回り、明らかにバランスを欠いていた。不調の極みか、バックラインで不用意な横パスをかっさらわれる場面もあった。

 前半、チームとして明確な戦い方を示したのは、愛媛のほうだ。愛媛は戦力では劣るものの、戦術的に秩序のある攻守を展開。ウィングバックを起点にシャドーがスペースを突くという単純明快な攻撃で相手にダメージを与える。とりわけ、右サイドの長沼洋一が幅を作りながら、質の高いボールを入れた。

 そして前半アディショナルタイムのスローインからだった。右サイドでボールを受けた長沼が中央へドリブルで切れ込み、柏の守備ラインをかき乱し、裏へスルーパス。これに滑り込みながらFW藤本佳希が合わせ、先制点を決めた。

「前半最後に失点して、自分たちで苦しい展開にしてしまった。もっとコンパクトな守備で、相手にやりたいことをできなくさせるようにすべき。攻撃的な守備と言うか……。ただ、後半は相手が疲れてくるのはわかっていたので、焦れずにプレーしました」(柏・小林祐介)

 リードを許した柏だが、後半は徐々に戦力差を見せつける。相手の足が鈍ってきたこともあって、前線のクリスティアーノ、オルンガ、ジュニオール・サントスにボールが入り始める。とくにクロスに対してはオルンガが絶対的な高さを見せ、制空権を握って押し込み、動揺を与えた。

 60分だった。クリスティアーノが蹴った右CKを、オルンガがファーポストで、難しい体勢から無理やりヘディングで叩く。これが左ポストを直撃し、その跳ね返りを染谷悠太が押し込んだ。

 同点に追いつく前、ベテランMFの大谷秀和が交代で入っていたが、柏はこれでバタつきが収まった。

「(交代出場するときに)ネルシーニョ監督に言われたのは、まず守備のところ。相手にやらせない。攻撃に関しては、ボールを引き出し、落ち着いて回す。監督は、『つなげ』『蹴れ』と(矛盾したことを)言いますが、どっちも正しくて。結局は自分の判断。相手を引き付けないと周りは空かないし、前が準備できているなら蹴るべきで、監督はその判断を求めている。まあ、監督自身の言葉の圧が試合の圧よりすごいですけど(笑)」(柏・大谷)

 今シーズン、柏はネルシーニョ監督が再任し、J1復帰を狙う。際立つのは、やはり勝負強さか。それはブラジル人指揮官の厳しさが生み出すものだろう。ひとつひとつのプレーに対し、明快に答えを示し、複数得点をしたブラジル人FWにも、「守備はできていなかった」と厳しさは変えない。硬骨な姿勢でチームに甘えを許さず、そのおかげで拮抗した勝負を制し、劣勢も挽回できるのだ。

 さらに柏は愛媛をじわじわと追い込み、ついにノックアウトする。80分、右サイドをクリスティアーノが攻め上がると、エリア内で江坂任が受ける。江坂は巧妙にシュートコースを作ると、ニアサイドに左足で流し込む。必然的な逆転劇だった。

 愛媛は、最後に力を振り絞っている。終了直前、右サイドを抜け出した長沼が、絶好のクロスを折り返す。しかし、中の選手は合わせきれなかった。

 柏は、2-1で4試合ぶりの勝利を収めた。

「チャンピオンになるのは、本当に難しい」

 試合後のロッカールームで、ネルシーニョは勝って兜の緒を締めたという。彼らしい采配だ。

 実際、柏は万全の戦いをしているわけではない。シーズン前半戦はもたつき、3バックから4バックに変更したことで、ようやく戦い方は安定した。しかし、依然として攻守の連動は乏しく、若い選手も台頭していない。外国人選手の個の力と老練な選手の試合勘で勝っているのが現状だ。

 しかし、勝負をものにするなかで生まれる作用もある。これで柏は、2位の横浜FCに9ポイント差をつけた。残り9試合。J1昇格(2位までが自動昇格)のゴールがぼんやり見えてきた。