永井秀樹 ヴェルディ再建への道
トップチーム監督編(3)



監督という立場でヴェルディ再建を進める永井秀樹

大逆転を演出したのは
ユースの教え子たち

 2019年7月20日(土)。永井秀樹は現役最後となった試合(2016年11月12日対セレッソ大阪)以来、約3年ぶりに今度は監督として、ホームの味の素スタジアムに戻ってきた。

「気持ちのたかぶりや試合に集中していく感覚は一緒。でも、現役時代以上に『クラブの命運がかかっている』という思いが湧いた。選手の頃には味わったことのない独特の緊張感があった」(永井)

 準備期間はわずか3日間ながら、永井はさまざまな「驚き」を用意した。

 新キャプテンには、弱冠20歳の渡辺皓太を指名。渡辺は声を出して仲間を鼓舞するようなタイプではないので、経験や実績で考えれば、35歳のベテラン、近藤直也が続けたほうがいいようにも思えた。しかし、6月に開催されたコパ・アメリカでも日本代表メンバーに召集されるなど勢いもあり、チームがきつい時に走り、前に出られない時に先陣を切る渡辺の存在は、プレーで引っ張っていけると判断した。加えて4歳から緑のユニフォームを着て育っていることからも新生ヴェルディの象徴になることを、永井は期待した。

「キャプテン交代についてどう伝えようか考えていた矢先、近藤自身から『永井さんが監督になられて体制も大きく変わるので、キャプテンも変えたほうがいいと思うんです』と申し出てくれた。すごくありがたかったし、自分の考えを理解してもらえていることがわかってうれしかった。キャプテンに指名して一番驚いたのは(渡辺)皓太本人だったと思う(笑)。『えっ!?』って顔をしていたから」

 次に先発メンバーは前節から6人を入れ替えた。トップのフリーマンには、第22節まで先発わずか4のレアンドロ。フォワードに起用した河野広貴も先発出場はここまで3で、梶川諒太も7。新キャプテン渡辺さえも先発出場は12だった。そうした新メンバーの中には、ヴェルディユース監督時の教え子、藤本寛也もいた。誰よりも長く「永井スタイル」を学び、体に染み込ませてきた選手だ。

 試合開始早々からヴェルディは、細かくパスを繋いで主導権を握る。しかし前半32分にパスカットされて失点すると、39分にはセットプレーから追加点を許し0-2とリードを広げられた。

「最初の失点場面は、自分がしてほしいと伝えたサッカーをしようとしてくれる中で起きてしまった。失点したこと自体は気分もよくないけど、普段から『俺たちは5-1で勝つサッカーを目指す』と話しているから、そこまで気にしなかった。でもセットプレーからの2失点目は想定外だった。

 とはいえ、失点を振り返っている余裕はない。それよりもさらに相手を見ながらプランを変えないといけない。『2点差がついた。じゃあ3点奪い返すためのプランを考えることに集中しよう』と自分に言い聞かせた。悪い流れをどうやって断ち切り、どう対処すべきかを考えることで精一杯。不安に思う暇もなかった(笑)」

 2点を追う苦しい展開に永井は大胆な策を打つ。

 前半終了直前に19歳の森田晃樹、後半開始早々に17歳で高校生の山本理仁ら、ユース時代の教え子を次々と投入した。森田はここまでの22試合で先発は1で途中出場は5。山本も先発3で途中出場も3しかなかった。

「『永井、J2の戦いをなめてんのか? ユースの延長じゃねえんだぞ』と思った人もいたかもしれない(笑)。でも、自分の中では自信を持って切ったカードだった。2人には自分が思い描くサッカーを2年半かけて伝えてきた。伝えたいことが10あるとすれば、すべてとは言わないけれど7まではすぐに理解できる。悪い流れを断ち切りたい状況で、晃樹と理仁を使うことについて何の迷いもなかった」(永井)

 森田と山本、そして先発の藤本と合わせて、ユース監督初年度のメンバー3人が、2年ぶりにピッチに揃った。ここから試合は大きく動き始める。

「正しいプレーに繋げるために、まずは正しい位置に立つ。数的な優位とポジショニングの優位性を保ち、攻撃に時間をかける」

 永井サッカーを学んできた3人が揃ったことで、わずか3日で対応しなければならなかった他の選手たちも呼吸が合い始めた。永井の頭の中にあるイメージはピッチでも形になり、流れは一気にヴェルディに傾いた。

 後半5分に1点を返すと、18分に同点弾。それから4分後の後半23分にもゴールを決めて瞬く間に試合をひっくり返し、永井は監督初陣を劇的な逆転勝利で飾った。

「勝利の瞬間はホッとした(笑)。選手は『半信半疑』どころか『二信八疑』でもおかしくない中で懸命に頑張ってくれた。そういう雰囲気を作る役割を果たしたのがユース時代の教え子だった。3日しかない準備期間でも、寛也を中心に晃樹や理仁も、ユースでどんなサッカーをしていたかを伝え、他の選手たちも積極的に確認してくれていた。すごくうれしかったし、ありがたかった」(永井)

「現役時代と監督になってから、勝利の喜びに違いはあるか」と永井に聞いてみた。

「現役時代も、もちろん勝てばうれしかった。でも、特に若い頃は『別に勝ってもうれしくない』という時期もあった(笑)。

 監督になってからは、喜びを分かち合ってくれる人の顔がよく見えるようになった。自分で考えたプランを実行してくれる選手、サポートしてくれるコーチや裏方さんを含めた大勢のスタッフ、応援してくれるサポーター。みんなの顔がよく見えるようになったし、みんなの喜ぶ顔が見られることが何よりうれしい。結果が出た時の喜びは、現役時代とは比べものにならないくらい大きい」(永井)

 自分の活躍に何よりも充実感を覚えた20代。30代、40代と現役を長く続けるうち、まわりを生かし勝利に貢献する喜びを知った。

 指導者になったいまは「サッカーはチームスポーツ」ということをより実感するようになった。それをリアルに教えてくれたのがユースの教え子たちだった。

「ユースでもトップチームでも、自分が志向するサッカーは同じ。質の追求も変わらない。教え子が活躍して勝利に貢献してくれたことは、ユースで取り組んできたことの証明にもなった。クラブユースに行く選手たちに対しても、何よりの激励になったと思う」(永井)

 今シーズン、J1昇格争い圏内(6位以内)に入ることはかなり厳しい状況だが、若いヒーローが次々と誕生するなどこれまでとは違う「驚き」がいまのヴェルディにはある。

 今シーズンも終盤に入った。永井ヴェルディは限られた時間、試合の中で、いったいどんな「驚き」を見せるだろうか。