男子テニス界ではBIG3が長年頂点に立っているものの、彼ら以外にも素晴らしい選手は多い。BIG3相手に毎回タイトルを争うとは限らなくても、時には名勝負を繰り広げ、このスポーツをより魅力的にして…

男子テニス界ではBIG3が長年頂点に立っているものの、彼ら以外にも素晴らしい選手は多い。BIG3相手に毎回タイトルを争うとは限らなくても、時には名勝負を繰り広げ、このスポーツをより魅力的にしてくれるベテラン・中堅勢を紹介していこう。

今回取り上げるのは、8月の「ATP1000 シンシナティ」でベルギー人として初のマスターズ決勝進出を果たしたダビド・ゴファン(ベルギー)。

一度の幸運から花開いた28歳のキャリアだが、ここまでの道のりは決して緩やかなものではなかった。

彼が初めて大きな注目を浴びたのは、2012年の「全仏オープン」。当時109位のゴファンはラッキールーザー(予選で敗退したものの、本戦に欠場者が出たことによる繰り上がり出場)として初の四大大会出場を果たすと、そのまま勝ち進み、4回戦でロジャー・フェデラー(スイス)と対戦。子どもの頃、部屋にポスターを貼っていたアイドルに敗れるも、第1セットを取ることができた上、「ラケットの感覚や試合を読む力は非凡だ。トップ20入りも可能だろう」と憧れの相手から評価されるという、「信じられない」ような経験を味わった。

その後も順調に成長し同年10月にはトップ50の壁を破る(48位)が、2013年9月に左の手首を手術。復帰後しばらく100位台をさまようものの、2014年シーズン途中から48戦44勝と波に乗り、チャレンジャーツアー4冠に加えて、8月の「ATP250 キッツビューエル」と9月の「ATP250 メス」で優勝。同年の終わりにはカムバック賞を受賞した。

しかし、2017年に再びケガに襲われる。「全仏オープン」3回戦で右足首を痛めて6週間の離脱。コート脇に置かれていたコートカバーに足を取られての転倒という不運な形で、同大会を途中棄権しただけでなく「ウィンブルドン」を欠場する羽目になった。それでも復帰後、同年の10月に「ATP250 深セン」と「楽天ジャパンオープン」で2大会連続優勝。さらに初めてチケットをつかんだ「ATPファイナルズ」で準優勝しただけでなく、ラファエル・ナダル(スペイン)とフェデラーにそろって初勝利を収めた。同年にこの二人を破った唯一の選手となったゴファンは、「こんな大きな大会で彼らにそろって初勝利できるなんて。間違いなく僕のキャリアにおいて最高の勝利だよ」と歓喜した。

だが、2017年後半の好調によりキャリアハイの7位につけたのも束の間、またもや不運に見舞われてしまう。2018年2月、試合中にラケットのフレームに当たったボールが左目に直撃しリタイア。4週間後に実戦に戻った後もしばらく視界がぼやけて、コンタクトレンズを使用しなければならないほどのダメージを負った。それでも同年の「全仏オープン」では3回戦で地元ファンの声援を受けるガエル・モンフィス(フランス)との5セットマッチに競り勝ち、ATPによる同年の四大大会でカムバックした選手の一人に選ばれる。しかし同年秋、右の肘のケガ(骨髄浮腫)により9月をもって早目のシーズン終了を余儀なくされた。

2019年シーズン、ゴファンは状況を変えるべく方針転換。「全豪オープン」で3回戦敗退となった後、長年のコーチであるティエリー・ファン クリーンプトと袂を分かち、2016年から臨時でチームに加わっていたトーマス・ヨハンソンを正コーチに迎えたのだ。2002年の「全豪オープン」王者であるヨハンソンは、ゴファンと同じく身長180cmとテニス界においては“小柄”。そんな彼とともに大きな相手との戦い方に取り組んだゴファンは、2015年以降では最も低い順位(29位)で臨んだ「全仏オープン」でナダル相手に1セットを奪い自信を回復。「全仏でラファと対戦するのは最もタフなチャレンジだ。でも第3セットではすごくいいプレーができて、自信を得られたよ」

その後、「ATP500 ハレ」で準優勝、「ウィンブルドン」でベスト8、そして前述の通り「ATP1000 シンシナティ」で初のマスターズ決勝進出。ただしマスターズでも準優勝に終わったように決勝での戦績はあまり良くなく、13戦で4勝にとどまっているが、本人は「優勝にこだわるのではなく大きな大会を優先している結果」と気にしていない。事実、準優勝9回の内訳は、「ATP250」が3つ、「ATP500」が4つ、「ATP1000」が1つ、「ATPファイナルズ」が1つだ。

「ある日突然、多くのケガに襲われるようになったけれど、コーチを代え、未来のために新たな土台を作り、プロジェクトを練り直すことにした。僕は今28歳だから、これからの4、5年に向けて新しいことを試していきたい。時間がかかるだろうけど、頑張っていれば素晴らしい時は来るはずだ」

その名前と小柄な体格から、旧約聖書の中で巨人ゴリアテを倒したダビデ(David)にたとえられることもあるゴファン。何度アクシデントに見舞われても前を向く彼に栄光が訪れる日を、楽しみに待ちたい。

※写真は「全米オープン2019」で2回選勝利を祝うゴファン

Photo by Mike Stobe / Getty Images

(テニスデイリー編集部)