ユベントスを止められるのはどこか。ここ数年のセリエAの話題はそのひと言に尽きる。ユベントスが圧勝し、ナポリ、インテル、ミラン、ローマがあとを追う……そんな状況がもう8年も続いている。だが、今季こそはついにその勢…

 ユベントスを止められるのはどこか。ここ数年のセリエAの話題はそのひと言に尽きる。ユベントスが圧勝し、ナポリ、インテル、ミラン、ローマがあとを追う……そんな状況がもう8年も続いている。だが、今季こそはついにその勢力図に変化がもたらされるかもしれない。その最大の要因は監督だ。昨シーズンの上位6チームうち、4チームが新監督を迎えている。驚いたことに、連覇記録を更新中のユベントスまでもが監督を代えた。



ユベントスで2シーズン目を迎えるクリスティアーノ・ロナウド

 ユベントスがスクデットに一番近い存在であることには変わらない。その強さの秘密は、どんなに勝ち続けても守りに入らず、常に攻めの姿勢を貫くことにある。昨年の夏にはクリスティアーノ・ロナウドを獲得してイタリア人を喜ばせたが、今シーズンは連覇中の監督の首をすげ替えて周囲を驚かせた。

 新監督は、ナポリやチェルシーを率いてきたマウリツィオ・サッリだ。スペクタクルで攻撃的な彼のサッカーは、「サッリズム」と呼ばれ、イタリアの辞書にも載るほどだ。前任のマッシミリアーノ・アッレグリは堅実で、いかにもイタリアらしい結果第一のサッカーだったが、ユベントスの幹部は、連覇するだけでなく世界を魅了するようなベル・ジョコ(見事なプレー)が欲しかったのだろう。

 ただ、ナポリでは成功していた「サッリズム」もチェルシーでは受け入れられなかった。組織的なメカニズムを重視した制約の多いプレーに選手たちが反発したのだ。同じようにスターひしめくユベントスでサッリズムがどこまで通用するかはわからない。サッリ自身は従来の戦術にはこだわらないと言っているが……。

 ユベントスの補強は相変わらず豪華だ。世代交代が叫ばれるDFには世界レベルの若手DFマタイス・デ・リフト(←アヤックス)と経験豊富なブラジル代表ダニーロ(←マンチェスター・シティ)を獲得。中盤には技巧派のアドリアン・ラビオ(←パリ・サンジェルマン)とアーロン・ラムジー(←アーセナル)を補強した。また、復帰組にはゴンサロ・イグアイン(←チェルシー)、そしてチームの旗印となるジャンルイジ・ブッフォン(←パリ・サンジェルマン)がいる。そのほかにまだ大物を狙ってもいるようで、移籍市場が閉まる9月2日までにはサプライズがあるかもしれない。

 アンチユベントスの最大の候補はナポリとインテルだろう。

 ナポリはここ4シーズン、ユベントスにぴったりとついてスクデットを狙ってきた。打倒ユベントスは彼らの悲願だ。そのうえ、ナポリサポーターのライバル心に火をつけたのが、サッリのユベントス監督就任だ。

 ナポリの最大の強みはすでに完成したチームを持っていることだ。監督のカルロ・アンチェロッティは2年目。攻撃の核となるアルカディウシュ・ミリク、ロレンツォ・インシーニェ、ドリース・メルテンス、ホセ・カジェホンなどもそのまま温存されている。他のチームが試行錯誤をするなか、一歩先んずることができるかもしれない。最後の仕上げとして、マウロ・イカルディ(インテル)、フェルナンド・ジョレンテ(トッテナム)、もしくはハメス・ロドリゲス(レアル・マドリード)のレンタルを画策している。

 インテルは監督にアントニオ・コンテを招聘した。コンテはユベントスの選手として18シーズンプレーし、その後は監督としてチームを3連覇させ、現在のユベントス一強の礎を作った本人だ。とにかくユベントスのイメージが強いため、チーム内外から賛否両論の声が上がり、あからさまに嫌悪感を示すインテリスタも少なくはなかった。

 しかし、今のままのインテルではダメなことは確かだ。レベルの高い選手をそろえながらも、それを使い切れないのが常である。そんな体質を鬼軍曹コンテが変えられるか。サポーターは大いに期待している。その証拠にすでに年間シートは4万席も売れている。同じサン・シーロを本拠地とするミランの3万や、ユベントスの2万7000を大きく超えていている。開幕戦では、久々にスタジアムの3階席までを開放すると言う。

 インテルの補強の目玉はなんといってもロメル・ルカク(←マンチェスター・ユナイテッド)だ。コンテのたっての希望である。これでイカルディの居場所はほぼなくなってしまった。

 ここ数年、オーナーが次々と変わり、財政危機が叫ばれていたミランは、今回、ヨーロッパリーグ出場権を自ら返上することで、やっと先行きが見えてきた。この6月にはレジェンドのパオロ・マルディーニとズボニミール・ボバンがフロントに入り、新たなミランを感じさせた。

 緊縮財政を強いられるため、この夏は価格の安い若手選手を中心に補強。獲得した選手の多くが25歳以下だ。そんな若いチームを率いるために選ばれた監督がマルコ・ジャンパオロ。ビッグチームを率いた経験はないが、これまで多くの若手をブレイクさせている。戦術を重視する彼のサッカーは、スター不在のチームに適しているだろう。GKジャンルイジ・ドンナルンマが、最終的にはパリ・サンジェルマンに行かずミランに残ることを選択したこともプラス材料だ。

 フランチェスコ・トッティとダニエレ・デ・ロッシが同時に去ってしまったローマもまた新たなチームを目指す。その任を託されたのがポルトガル人監督のパウロ・フォンセカだ。彼はかつて壊滅状態にあったシャフタール(ウクライナ)を勝利に導いた経験があるが、今回もレジェンドの抜けたローマを救うことができるだろうか。

 補強したのはレオナルド・スピナッツォーラ(←アタランタ)、アマドゥ・ディアワラ(←ナポリ)、そして昨シーズンのアタランタの躍進の鍵となったジャンルカ・マンチーニなど。なによりもインテル行きが濃厚と噂されていたエディン・ジェコとの契約を更新できたことがこの夏最大の成功だ。

 昨シーズンの何よりのサプライズはアタランタだった。アタランタのイメージといえば長らく”ビッグクラブへの選手供給チーム”というものだったが、今シーズンはチーム史上初めて、チャンピオンズリーグに挑む。ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督のもとにはビッグチームからのオファーも寄せられたが、彼はアタランタに残ることを希望。選手も昨季の主力はほぼそのままで、完成度の高いチームを目指す。

 最後に冨安健洋の加入したボローニャについて触れておこう。最大の武器は監督のシニシャ・ミハイロビッチだが、そのミハイロビッチが白血病の治療でベンチを離れてしまった。ただ、ミハイロビッチはビデオで試合中継を見ながら、病床から指揮を執るという。その熱意がチームを一丸にすることは間違いないだろう。

 セリエAは8月24日に開幕。第2節には早くもローマ対ラツィオの首都ダービー、そして因縁のユベントス対ナポリの好カードが組まれている。