欧州での10シーズン目を迎えた香川真司が、夢のスペインで第一歩を踏み出した。所属するクラブは2部のレアル・サラゴサだ。



テネリフェ戦で先発、スペインでのデビューを飾った香川真司(サラゴサ)

 スペインで移籍先を探し始めたのは昨年の夏から。もちろん当初は1部のクラブとの契約を望んでいたという。だが、なかなか決まらないまま夏の市場が閉まり、今年1月の冬の市場でも移籍先は決まらなかった。結局、ドルトムントからのローンという形でベジクタシュ(トルコ)でプレーすることになった。そして、移籍先を探し始めて2回目の夏、決断したのがサラゴサだった。 

 この間に、香川自身は「考え方が変わった」と言う。この夏も1部のクラブを前提に考えていたが、決まらないという現実を受け止め、2部でも受け入れられるようになった。スペイン以外の国のクラブからも関心やオファーは示されていたという。「移籍期限ギリギリまで粘ればまた別の話もあっただろう」とも香川は言う。だが、プレーすることだけでなく、「その土地にいること自体を心から楽しみ、愛せるクラブで挑戦をしたい」と考え抜いた結果がサラゴサだったというのだ。

 筆者は「移籍先が決まるまでは時間がかかる」とも関係者から聞かされていたため、8月9日という早い段階で発表があったことに驚いたものだが、本人の考え方の変化を聞いてなるほどと思った。香川は「チームを1部に昇格させることが目標」と何度も繰り返して語っている。自分自身がトップレベルに返り咲くだけでなく、チームの一員として定着し、腰を据えて長期戦で戦うつもりであり、サラゴサはそれに値するクラブだと判断したということだろう。

 スペイン2部は17日に開幕。サラゴサはホームにテネリフェを迎えた。試合は2-0でサラゴサが勝利。香川は4-2-3-1のトップ下で先発し、得点にこそ絡まなかったが、80分間プレーした。

 香川以外の新加入選手も多いなか、テネリフェに終始ボールを回される展開が続いた。サラゴサの得点は、先制点はカウンターからのもので、2点目は香川が退いたあとのPKだった。サラゴサは主導権を握り切れないだけでなく、プレスをかける位置やタイミングも定まらなかった。時折繰り出すカウンターだけが、攻撃の有効な手段だった。

 香川自身はこのプレシーズン、ドルトムントで練習試合に1試合出場したのみで、ほとんどチームとの練習ができていなかった。実戦から離れた状態だったが、新加入選手として大きな期待を受けてピッチに立った。

「未経験というか、プレシーズンにほとんど試合をしてないのでぶっつけ本番だし、(サラゴサで)1週間しか練習してないので、不安はありましたけど、試合に入ったらそれは忘れて、やれることはやるというのを意識していました。よく80分まで体力がもったな、と。脚は結構つっていましたけど」

 そう語る香川の表情は、久々に楽しそうだった。過去には、たとえチームが勝っても自分が得点していなければ不機嫌な様子を見せた時代もあったが、この日は1試合を終えられたことを、満足そうに振り返った。

 序盤から周囲に積極的に声をかけた。その理由はチームの中心としてやっていくという自覚が半分。あとは実際に知らない選手が多いため、話をしながら試合を進める必要があったからだと言う。

「新加入の選手も多く、一緒にやったことがない選手が多いので、プレッシングのところでのズレなど、うまく回ってなかったところがたくさんあったので、声をかけながらやっていかないといけないなと感じました。僕が知らない選手も多いし、選手の特徴を試合の中で感じながらやりました。

(先制点を決めた)ルイス・スアレスとかの推進力は、とてつもないものがあるので、ひとりで行っちゃう部分もあるのですが、キープする時間も必要だし、そういう意味でいろいろな選手の特徴を知ることができたのはよかった。もっとよくなっていくのは間違いないので、また練習からやっていけたらいいなと思います」
 
 そして「勝ててよかった」と繰り返し、チームの勝利を喜んでいた。

「結構やられていたし、ラッキーな形がたくさんあった。ただ、内容がよくても勝てないと意味がないし、内容が悪くても勝つこと、勝つことで得られる自信が今は大事だと思っている。去年はそういうシーズンを送れなかったので、勝ち続けるという結果も必要だなと思っています。そのうえでサッカーの内容をいかに上げていくか、両方トライしながら、もっと成長していきたいと思う」

 スペインでのスタートは、まずは及第点といったところだろう。今後は、ドルトムントやマンチェスター・ユナイテッドを経験してきた選手として、チームを引き上げることも期待される。だがその前に、香川自身が、プレー機会の少なかった昨季の分も含めて、コンディションや試合勘を取り戻さなくてはいけない。

 そのことは、「うまくいかないこともあるだろうし、体のキレを含めて、そこまでベストではないのは事実」と、自覚している。試合を重ねるなかで、ベストを目指すことになる。
 ようやくたどり着いたスペインの地で見たいのは、

「それなり」の香川ではなくて、あくまでベストな状態の香川だ。若い頃とはまた違う、経験を積んだ30歳のプレーで、チームを牽引する姿を見ることはできるだろうか。