「ポーランドでのエクアドル戦の前半を見ているのかという不甲斐なさだった」 U-18日本代表を率いる影山雅永監督は、そんな表現で選手たちの戦いぶりを評した。 日本、コロンビア、ベルギーのU-18代表に、静岡ユース(静岡県選抜)を加えた4チ…

「ポーランドでのエクアドル戦の前半を見ているのかという不甲斐なさだった」

 U-18日本代表を率いる影山雅永監督は、そんな表現で選手たちの戦いぶりを評した。

 日本、コロンビア、ベルギーのU-18代表に、静岡ユース(静岡県選抜)を加えた4チームが出場し、静岡県内各地で行なわれていたSBSカップの最終日。総当たりで優勝が争われた大会は、最後の日本vsコロンビア戦の勝者がタイトルを手にすることになった。

 結果は、コロンビアが3-1で勝利。最終的にコロンビアと日本が2勝1敗の勝ち点6で並んだが、得失点差で上回るコロンビアが、逆転優勝を果たした。

 優勝の行方を左右する重要なポイントとなったのは、コロンビアが2点を先制した前半の戦いである。

 コロンビアの激しいボディコンタクトやスライディングタックルの前に、日本の選手たちは気後れしたのか、攻撃はまるで他人任せ。誰も積極的に相手ゴールへ向かおうとしないばかりか、イージーミスも目立った。

 当然、相手は日本のスキを見逃してくれない。コロンビアの選手は意図の乏しい横パスやバックパスに狙いを定め、高い位置で次々にボールを奪うと、高速カウンターを仕掛けてきた。

「ボールに関わることへの恐れが出た。そういうメンタルになると難しい」

 そう語り、前半の内容を嘆く影山監督が口にしたのが、冒頭のコメントだった。

 指揮官が引き合いに出した「ポーランドでのエクアドル戦」とは、今年5月に行なわれたU-20ワールドカップのグループリーグ初戦のこと。この試合の前半もまた、当時の影山監督の言葉を借りれば、「チーム全体がナーバスになり、普段やっていることを放棄するような」内容となり、日本はエクアドルに圧倒された。

 幸いにして、最悪の45分間を教訓としたチームは尻上がりに調子を上げ、グループリーグを突破できたからよかったようなものの、一歩間違えば、取り返しのつかない45分間になるところだったのだ。

 当時、影山監督は第2戦を前に、選手たちに「初戦で払った授業料を取り返そう」と話したというが、この日も「前半でまたも高い授業料を払った」と苦笑いを浮かべた。

 とはいえ、後半の戦いぶりについては、「選手たちは”自分内改革”をやってくれた」と影山監督。交代出場で1ゴールを挙げたMF小田裕太郎(ヴィッセル神戸U-18)に引っ張られるように、日本は再三チャンスを作り出し、コロンビアゴールに迫った。

 結果的に、前半のビハインドが致命傷となり、敗れはしたが、あわや同点かというところまでコロンビアを追い詰めた内容は、十分評価に値するものだった。影山監督が「後半は楽しい40分だった」(SBSカップは40分ハーフ)と言うのも、うなずける。

 それにしても「自分内改革」とは、言葉巧みな影山監督らしい表現である。

 自分たちの力が出せない試合の中には、もちろん、相手との力関係で完全にねじ伏せられてしまう場合もあるだろう。だが、その多くは、勝手に相手を恐れ、本来の力を出し切れなくなる場合がほとんどなのだ。だとすれば、それは相手うんぬんではなく、自分の中で解決するしかない。

 コロンビア戦でキャプテンを務めたMF松本凪生(セレッソ大阪U-18)は、前半の戦いについて「雰囲気が後ろ向きだった」と言い、「受け身になると、ミスしちゃいけないというマイナスなところ(気持ち)が出てしまう」と反省の弁。だが、ハーフタイムに影山監督から「喝を入れられた(苦笑)」選手たちは、「みんなが気合いを入れ直した」という。

 日本の選手たちは、不甲斐ない前半を経て、後半を前に”自分内改革”を行なった。だからこそ、後半は好ゲームを展開できた。これまでに経験したことのないプレー強度の高さに面食らう選手たちに、ハーフタイムを挟んでしっかりと気持ちを切り替えさせ、あらためて後半のピッチに送り出す手腕はさすがだった。

 2年後のU-20ワールドカップを目指すU-18代表。そのチームの指揮を執る影山監督は、2世代続けて同年代の日本代表を率いている。



U-18日本代表の影山雅永監督

 これまでは、ひとつの世代の活動が終わると監督も交代するのが通例であり、今回はいわば異例の続投。過去に同様の事例は、2003年、2005年ワールドユース(現・U-20ワールドカップ)に出場したU-20代表を率いた大熊清監督の例があるだけだ。

 1世代ごとに監督を交代させれば、より多くの指導者に経験を積ませることになり、相応のメリットはある。だが、裏を返せば、せっかくチーム立ち上げから世界大会出場までのプロセスを一度経験しながら、それを次に生かす機会が今までは与えられていなかったとも言える。

「(コロンビアのような)こういうチーム、こういう選手とやりたかった」「この強度のなかで感じたものを(日常的に)持ち続けることが大事」「選手の吸収力は高い。2年前より早いスパンでチーム作りが進んでいる」

 影山監督がそんなことを語れるのは、U-18代表がU-20代表となり、世界大会に至るまでの成長過程を知るからこそ。日本が世界と戦うために何が足りないのか。何を強化する必要があるのか。逆に言えば、限られた時間の中で、何を省いてもいいのか。そんなことが具体的に見えているからだろう。

 今年18歳の選手たちと言えば、久保建英(レアル・マドリード)と同い年。このチームに久保が加わる可能性は限りなくゼロに近いだろうが、5年後、10年後のA代表を見据えたときには、この世代全体が底上げされなければ、久保という稀有な才能も生かされない。

“久保世代”の強化において、異例の続投となった指揮官は、心強い存在となるはずである。