【写真提供=共同通信】  仙台育英に敗れ、応援席へあいさつに向かう飯山ナイン=甲子園 飯山市は長野県の北東部、新潟県と隣接する。約1万9000人という人口は県内では最小の市になる。人口減少、高齢化が進んでいて、市内の中心地はシャッター商店街…

【写真提供=共同通信】  仙台育英に敗れ、応援席へあいさつに向かう飯山ナイン=甲子園

 飯山市は長野県の北東部、新潟県と隣接する。約1万9000人という人口は県内では最小の市になる。人口減少、高齢化が進んでいて、市内の中心地はシャッター商店街も多いと聞く。これらを逆手にとって、首都圏から若い世代を受け入れる支援を行政が積極的に行なっている市でもある。

 今回の甲子園出場校紹介などでも再認識されたのは、国内有数の豪雪地帯ということだ。吉池拓弥監督によれば、「積雪は1から2メートルは普通に積もります」。

 商店街の通路に雪除けのためについた屋根を雁木というが、飯山のそれは有名だ。

 そんな地方都市から、よくある県立の普通高校が初めて甲子園にやってきた。

 飯山は少子化のため、高校の合併が段階的に行われた。07年に飯山南と飯山照丘がまず統合し飯山に。そこに14年、飯山北も統合された。
 校舎も新しくなって、校歌も新しくなった。新設されたことで県内初のスポーツ科学科が設置されて、スキー、剣道、陸上とともに野球部も強化指定クラブになった。それが、今回の快挙につながっている。

 野球部の3年生では9人がスポーツ科学科だ。
石沢太一遊撃手(3年)もその一人。
「火、木曜日に専攻実技という授業が5、6時間目にあって、吉池監督が体育の教師として野球の技術練習をしています。
月、金曜日はスポーツ概論という授業があって、それぞれの課題を研究しています。僕と竹腰(友太・3年)でノーアウトランナー一、二塁の場面で、どのような作戦が一番得点になりやすいかを研究しています。今のところ、エンドランが一番得点を取りやすい、という結論になりそうです」

 田原大聖投手のスポーツ概論の課題研究は岡田恵太ら投手陣でやっているという。
「1年生のときは笑顔と真顔だとどちらが球速が速いかという課題を研究して、真顔という結論となりました。2年生の時は、打者はどのコースがバントを決めやすいかを研究しました」

 そして、雪でグラウンドが使えない冬場のトレーニングはどうしているのか。
 まず石沢がいう。
「室内練習場はありますが、ソフトボール、陸上、サッカー、テニスなど他の部と共有なんです。だから冬は内野手同士で雪の中でボール回しをしたりしています」
そして投手陣。
「冬でも比較的温かい駐車場などの場所でキャッチャーを座らせてピッチングをします」と田原。

 ただ、吉池監督が力強く言う。
「雪は逆にハンディと捉えずに、プラスに捉えてやってきてる。雪があるから負けたくない、強くなりたいと」

 今大会最多出場、仙台育英との試合は飯山が思惑通り先制した。
3回表だ。7番の村松諒(3年)が四球で出塁。バントで送って1番で主将の大川陸(3年)がライト前にライナーではじき返した。
 ここから3人の投手陣で粘って行くはずが、甲子園の常連は許してくれなかった。

 その裏に鍵になるプレーがあった。同点に追いつかれ、ランナーが一塁に残る。次の5番打者の打球はレフト線へ。レフトの鈴木悠平(3年)が打球を処理してセカンドへ返球。その間に一塁走者がホームへ返ってきた。サードに返球していれば、走者は自重したタイミングだった。
「甲子園という普段と違う環境で次のプレーを確認できなかった。ベンチからは声も届かない部分もあって、もっと工夫して意識を統一していれば」
 吉池監督が悔やんだシーンだった。

 若林陽生二塁手が続ける。
「連係プレーが乱れました。声が全然通らず、ジェスチャーも届かなった。甲子園の雰囲気というものはどんなところか後輩にしっかり伝えたい」

 あとはなす術が無かった。
 5回には9安打を浴びて10失点。野手の間に上がった飛球もことごとく安打になる不運。
「圧倒的な打撃力の前になんにもできないところがあった。野手とバッテリーも、思考停止状態で。考えることが止まって、足が動かない選手がいた。追いつけるボールに追いつけなかったり、送球ミスが出たり。相手のプレッシャーがあって気持ちで負けてしまったのかなと」

 吉池監督は自身が高校時代、甲子園に出場しているが、勝利を挙げられなかった。
「甲子園で勝ちたいと指導者になったんです。監督就任1年目から選手がここまで連れてきてくれて、今日は僕が勝たせたやると話したんですが・・・。選手に言葉で何をどうやって伝えたらいいのかわからなかった。ほんとに今日は苦しかった。でも、レベルアップしてまた、戻ってきたい」

 ゲーム後の大川キャプテンに涙はなかった。
「きついことも言いましたし、やめたいこともありましたが、走り続けられた。最後、こういう終わり方でしたがいいチームだった」

 バス70台、4,000人の大応援団がアルプススタンドに詰めかけた。ユニフォームと同じ白一色に埋められた。そう、雪のように。アウト一つ取るごとに、一つストライクを取るごとに拍手が湧いた。

 先発した岡田恵太(3年)が言った。
「真っ白な応援席は学校から見える日本アルプスのように清々しく見えました」

 安打数24本対2本。得点20対1。それでもナインの表情は晴れやかだった。

文・清水岳志