夏の甲子園第101大会の代表49校が出揃った。その一方で、センバツ優勝の東邦は愛知大会の2回戦で星城に、しかもコールド負けという衝撃的な敗戦を喫した。そればかりではない。最速153キロ左腕・及川雅貴を擁する横浜も、神奈川大会準々決勝で県立…

 夏の甲子園第101大会の代表49校が出揃った。その一方で、センバツ優勝の東邦は愛知大会の2回戦で星城に、しかもコールド負けという衝撃的な敗戦を喫した。そればかりではない。最速153キロ左腕・及川雅貴を擁する横浜も、神奈川大会準々決勝で県立相模原に逆転負け。センバツベスト4の明豊も大分大会準決勝で大分商に敗れるなど、センバツ出場校が続々と敗退していった。結局、センバツに出場した32校中、夏の甲子園に出場するのは11校。約3分の2のチームが、春夏連続出場を果たせずに終わったのである。



この春のセンバツに出場した横浜も神奈川大会準々決勝で県立相模原に敗れた

「高校野球は夏の迎え方が難しい」

 多くの指導者がそうした言葉を口にする。

 どの選手もテンションMAXで迎える夏は、技術的にも精神的にも充実しており、「この選手がこんなプレーを」というのはよくある話だ。じっくり時間をかけてつくり上げてきたチームが、夏になってようやく覚醒……ということもよくある。

 そんな状況で繰り広げられる地方大会だから、”顔”で勝てるほど簡単なものではない。しかも負けたら終わりの一発勝負。波乱は日常的に起こるのだ。

「春の大会から夏の大会まで、ほんとあっという間です。だいたい2カ月半ぐらいあるのですが、実感としてはせいぜい1カ月ぐらい。あれもやりたかった、こんな練習もしたかった……いつもそんな思いで夏を迎えています」

 ある高校の監督がそう言っていたことがあったが、春から夏までは本当に短い。休みなく練習が続き、週末、休日は練習試合か公式戦。身も心もクタクタになったところで梅雨が始まり、疲れた心身にさらにダメージを与えてくる。ましてや、センバツに出場したチームとなれば、招待試合をはじめ全国各地に遠征に行くことも多い。自分たちの今のチーム状況をじっくり把握する時間はほとんどないと言っても過言ではない。

 以前センバツで優勝した監督から、こんな話を聞いたことがある。

「センバツで勝ってから、なんだかチームがしぼんでしまったというか、なんて言うんですかね、キバをむく感じがなくなったというか……。選手たちは元気なんです。練習中の活気も変わらないし、普段の生活も明るい。でも試合になるとあっさり負けるんです。負けるはずのない相手にもあっさりやられて。大敗はしないんですが、勝てない。こっちもどう考えていいのかわからなくて。チームを劇的に変えるには、やはり時間が足りないんですよ」

 そして最後にこう漏らした。

「小さな達成感って言うんでしょうか。たしかにありましたね、そういうのが……」

 別の監督も、初めて出場したセンバツで1勝してから、「チームが半分空気の抜けた風船みたいになってしまった」と言う。

「センバツは夏のように勝ち抜いて出るわけじゃないですが、甲子園は甲子園なわけですよ。それに1勝までしちゃって。選手たちにとっての究極の目標が、すでに春の段階で達成されてしまった。寮の部屋に甲子園で買ってきたペナントを貼っている選手もいました。一度でもそういう気持ちになってしまうと、『さぁ、夏も甲子園だ!』って言っても、なかなか難しいですね」

 じつは、このちょっとした達成感は、選手たちだけとは限らない。また別のある指導者は、自身の現役時代の体験談を語ってくれた。

「監督がいつも『目標は全国制覇だ!』って言っていたんですが、センバツでそれに近いことをやってしまって……正直、僕ら選手は満足感に浸っていました」

 そんなムードのなか、5月の練習試合でまさかの大敗を喫してしまったという。

「試合が終わったあと『どれだけ怒られるんだろう』と思っていたら、監督はこう言うわけです。『お前ら、甲子園なんか目標にしているから、こんな小さい野球しかできないんだ! 甲子園なんて小さい。どうせ目標を持つなら、もっとデカいものにしろ。オレはお前たちが、どんな分野でもいいから、世界に通用するヤツになれるように野球を教えているんだ!』って。みんなひっくり返りましたよ(笑)。ちょっと前まで『甲子園、甲子園』って言っていた人がですよ。なんだこの変わり身は……と思いましたね。監督もどうしていいのかわからなかったのかもしれないですね」

 監督、選手をはじめチーム全員が再び同じ目標に向かって走り出すというのは、口で言うほど簡単なことではないのかもしれない。

 しかもセンバツ出場組は、相手チームから徹底マークにあい、どこか「勝って当たり前」と思われている節がある。そんななかで戦うプレッシャーはハンパない。これまで多くの番狂わせを演出してきた最大の要因でもある。

 昨年の大阪桐蔭のように、センバツで優勝し、夏も地方大会を勝ち上がり、甲子園でも優勝するような偉大なチームもあるが、実際は地方大会で1勝するだけでも大変なことである。センバツの余韻に浸ることなく、過密スケジュールをこなし、プレッシャーにも打ち勝たなければならない。並大抵のことではない。だからこそ、春夏連続出場を果たした11校には感服するしかない。

 負けられないプレッシャーから解き放たれた今、今度は甲子園で思う存分、野球を楽しんでほしいと切に願う。