井端弘和「イバらの道の野球論」 開幕から、日本ハムが挑戦する”MLB流”の戦術が注目を集めて…
井端弘和「イバらの道の野球論」
開幕から、日本ハムが挑戦する”MLB流”の戦術が注目を集めている。中継ぎ投手を先発に起用する「オープナー」や、あえて穴を開けるような極端なシフトの守備は、プロ野球ファンを驚かせた。
大谷翔平(現エンゼルス)を”二刀流”で起用するなど、固定概念にとらわれない栗山英樹監督の決断は、成功していると言えるのか。現在の日本ハムのキーマンを含め、解説者として活動しながら侍ジャパン強化本部の編成戦略担当を担う井端弘和氏に見解を聞いた。

巨人から移籍した大田泰示(中央)らを中心にシリーズを戦う日本ハム
──井端さんは、開幕前のパ・リーグ順位予想で日本ハムを1位としていましたが、その理由はどこにあったのでしょうか。
「春の沖縄キャンプを視察した時に、切れ目がなく厚みのある打線だと感じたんです。台湾プロ野球から王柏融(ワン ボーロン)が加入して、オープン戦で右手を骨折するまでは清宮(幸太郎)も調子がよかったですし、メンバーのバランスがよかったですね。昨季の西武のような”超攻撃型”で、ピッチャーが多少失点しても盛り返す力があると思い1位にしました」
──5月29日時点でリーグ5位ながら、1位の楽天まで2.5ゲーム差。ここまでは、中田翔選手と共にチームトップタイの30打点を挙げている大田泰示選手の奮闘が目立ちます。巨人時代にはチームメイトであり、2016年はコーチと選手という関係でしたが、大田選手の印象は?
「巨人時代はなかなか一軍で成績が残せませんでしたが、とにかくパンチ力があって、岡本(和真)よりも遠くに飛ばしていましたよ。たまに、早出の特打ち練習の手伝いで打撃投手をしたこともあります。普通は打者がタイミングを取るんですけど、大田の場合は、投げる私が大田に合わせて”タイミングを取ってあげている”ような感覚になることがありましたね(笑)。そこが大田の課題だったように思います」
──日本ハムに移籍してからの活躍はどう見ていますか?
「巨人時代は『打てなかったら外される』という危機感を必要以上に抱いてしまっていたんじゃないかと思います。移籍後はスタメンでの出場が増え、日本ハムは比較的に長く選手にチャンスを与える傾向にあるので、そこで気持ちの余裕が出てきたんでしょうね。今季は、このままいけば自身初の打率3割を達成できる可能性が高いですし、その他の部分でもキャリアハイの成績を残せるんじゃないでしょうか」
──大田選手は、”見た目”も大きく変わりましたね(笑)。
「金髪NGの巨人時代から憧れていたのか、移籍してすぐに明るい髪色にしましたよね。今の色は中途半端なので、まぶしいくらいの金髪にしてしまってもいいと思いますけど(笑)。それは半分冗談ですが、いい意味で”勘違い”をするくらいのほうが、大田にはプラスに働きそうな気がします。ずっと調子に乗り続け、チームを背負う選手にまで成長してほしいです」
── 一方で、投手陣でポジティブな要素はありますか?
「2017年にヤクルトから移籍した杉浦(稔大)ですね。映像で『日本ハムに素晴らしい投手が入ったなぁ』と見ていたら、ヤクルトにいた杉浦ということがわかって驚いたのを覚えています。最大の魅力はストレート。球威で押すソフトバンクの千賀(滉大)とはまた違う、糸を引くような美しいボールを投げています。現在は、故障明けということもあって球数制限を設けながらの登板になっていますが、杉浦が1年を通して活躍できれば、大きな戦力になるでしょう」
──今季の日本ハムは、中継ぎ投手を先発に起用する「オープナー」や、極端な守備のシフトなど、”MLB流”の戦略が注目されていますが、それらをどう見ていますか?
「新しい試みは、大谷翔平の”二刀流”のように、少なくとも1年を通した結果を見てからでないと判断しにくい部分があります。ただ、MLBでは定着していても、プロ野球で有効かどうかわからない戦術を最初に取り入れる勇気と決断は、それだけでも評価に値するものだと思います。日本の野球の幅を広げるきっかけになるといいですね」
──シフトを敷く場面は、オリックスの吉田正尚選手や西武の森友哉選手など、特定の選手に限定されていますね。
「そこもヒットを防ぐことができた確率や、シフトが有効な打者を見極めながら実施していくことになるでしょう。ただ、シーズン終盤やクライマックスシリーズなどの”絶対に落とせない試合”では、シフトは敷かないんじゃないかと思います。そういった試合では、打者がセーフティバントで野手のいないところを狙う戦略を取ることも考えられますし、当たりぞこないの打球が飛んで失点をするようなことがあると、特に短期決戦などではそのショックを引きずる恐れもありますから」
──井端さんは現役時代にシフトを指示された経験はありますか?
「極端なシフトは経験がないですね。多少の守備位置の変更はありましたが、中日時代にお世話になった、コーチの高代(延博・現阪神ファームコーチ)さんからは『打球の行方に関しては、守っている野手の判断が正解だ。ベンチ指示が間違っていると思ったらすぐに申し出てくれ』と言われたことがあります。
ベンチからグラウンドを見る首脳陣よりも、野手の感覚を優先してくれたんです。日差し、照明、風向きなどもそうですが、試合の流れも野手のほうが敏感に感じ取れる場合があります。例えばプルヒッターでも、その日の調子やバッテリーの配球から、『反対方向に打球が飛びそうだ』と思ったり。おそらく日本ハムの栗山(英樹)監督も、野手と情報を交換しながら、シフトの精密度を高めていくんじゃないかと思います」
──栗山監督の采配の印象についてはいかがですか?
「一般的には、前例のない戦術を積極的に採用する”探究者”のイメージが強いと思いますが、あくまでオーソドックスな野球を軸に戦う印象があります。そして、基本と斬新さが噛み合ってくるシーズン後半に強さを発揮する印象が強いですね。今季も勝率5割前後をキープして前半戦を乗り切れれば、そこから上位を狙える可能性も十分にあると思います」