「今のところは順調です。もちろん、これからいろいろ出てくるとは思いますけど、(何かが起こっても)バタバタすることはな…

「今のところは順調です。もちろん、これからいろいろ出てくるとは思いますけど、(何かが起こっても)バタバタすることはないですね」

 ニューヨーク・ヤンキース投手陣のキャンプが始まった2月14日(現地時間)。フロリダ州タンパにあるキャンプ地のロッカルームで、田中将大はリラックスした表情でそう述べた。日焼けした顔からは精悍(せいかん)な印象を受けたが、新シーズンへの手応えを感じさせた理由はそれだけではあるまい。

 昨シーズンまで、日本人としては史上初となる「メジャーデビューから5年連続での2ケタ勝利」を達成。また、プレーオフでの通算防御率1.50(ポストシーズンで5戦以上先発した投手の中で歴代5位)という数字も燦然(さんぜん)と輝く。新陳代謝が激しく、”日本人投手たちは慣れられたら厳しい”とされるメジャーの世界において、田中が残してきた成績は胸を張っていいものだ。



ヤンキースで6年目のシーズンを迎える田中

 過去2年、2015年に14勝(7敗)を挙げたソニー・グレイ(現シンシナティ・レッズ)がヤンキースで苦戦したように、ニューヨークは才能ある選手が誰でも活躍できる場所ではない。かつては井川慶など、この街で輝けなかった日本人投手もいたが、田中の場合は”ニューヨークの成功者”というイメージが確固たるものになっている。

「マサ(田中の愛称)は、先発ローテーションのどんな位置だろうと気分よく起用できる。開幕戦でもプレーオフでも自信を持ってボールを託せる。マサをどこで起用するかについて、私たちはまったく心配していない」

 アーロン・ブーン監督のそういった言葉は、単なるリップサービスではないはずだ。これまでの安定した実績を考えれば、田中がメジャーで迎える6年目のシーズンも優れた成績を残す可能性は高いだろう。

 だが、そんな田中にも”突っ込みどころ”がないわけではない。昨シーズンの12勝5敗、防御率3.75という数字はハイレベルだが、シーズン中には投球が不安定になる時期もあった。夏場の故障離脱から復帰した後に再びペースを上げたのは見事だったが、トータル156回というイニング数は、エース級の投手としては物足りない。

 繰り返すが、ピーク時の田中のパフォーマンスはメジャーでもトップクラスだ。1年目の前半戦は11勝1敗、防御率1.99と最高のスタートを切り、2017年プレーオフでは3試合で防御率0.90と完璧な投球を披露した。さらに昨季プレーオフの地区シリーズでも、後に世界一まで上り詰めるボストン・レッドソックス打線を5回まで封じ込めるなど、ビッグゲームでの支配的な投球を挙げていけばキリがない。

 しかし、そのレベルを保ってフルシーズンを戦うまでには至っていない。それゆえ現時点での田中は、メジャーでは”エリートレベル”の投手とは考えられていないのだ。その部分を変えていくことが、ヤンキースの背番号19にとっての次なるステップになる。

 それが難しい注文であることは間違いない。シーズン中に10〜15勝をマークし、プレーオフで活躍できるだけでも上出来。DH制度があるア・リーグの強力打線、厳しい日程を考慮すれば、「ここまでの田中のパフォーマンスは十分だ」と感じるファンもいるだろう。

 ただ、これは個人的な期待感にもなるが、田中が”メジャーの集大成”というべき最高の成績を記録する可能性は、年々高まってきているように感じる。そのために必要なのは、「心技体すべての充実」と「いくらかの幸運」。30歳と年齢的に脂が乗り、精神的にも安定し、チームも強力なメンバーを揃えた2019年は、その絶好のチャンスになるのではないかと思う。

「200イニングを意識するレベルに達していない。これまではどこかで穴を空けてしまったシーズンが多いですし、まず1シーズンを通して投げないと意味がない。それが一番大事なので、今は『200イニングが目標』と言える土俵にいないです」

 14日、メジャーではまだ一度も達成していない「シーズン200イニング」について聞くと、田中からはそんな答えが返ってきた。毎年のように故障者リスト入りを経験してきた田中にとって、まずは1年をケガなく投げ続けることが目標。逆に言えば、それができれば結果はついてくる。200イニングにあと一歩届かなかった、2016年の199回3分の2を上回ることも可能だろう。

 今季のヤンキースは、アロルディス・チャップマン、デリン・ベタンセス、ザック・ブリットン、アダム・オッタビーノと、リーグ最高級のブルペンを揃えている。そんな救援陣と、強力打線に支えられて余力を残してシーズンを過ごし、得意のプレーオフに臨むことができれば……。自己、チームともに大成功という”ドリームシーズン”になるかもしれない。
 
「まずは、自分がやらないといけないことをやっておくこと。それができたら(200イニングという)数字に辿り着けると思う。今は目の前の課題をひとつずつクリアしていくことが、本当に大事だと思っています」

 三十路を迎え、これまで以上に落ち着きを感じさせるようになった右腕にブレはない。一歩ずつ進めば、いい結果が出せることはもうわかっている。あとは、さらに先に進むためのカギになる耐久力を保てるかどうか。自然体ながらも頼もしさを感じさせた田中の2019年シーズンが、もうすぐ始まろうとしている。