ベースボールはどこへ向かおうとしているのだろうか。メジャーリーグ機構とメジャーの選手会は、早ければ今季から導入される新…
ベースボールはどこへ向かおうとしているのだろうか。
メジャーリーグ機構とメジャーの選手会は、早ければ今季から導入される新ルールに関して議論を重ねているが、その一つに「投手の打者3人との対戦の義務化」が含まれていると、米メディア「ジ・アスレチック」が報じた。
導入されれば救援投手のワンポイント起用ができなくなる。
読者の方もご存じだろうが、野球は左と右で有利不利が大きく異なるスポーツ。試合終盤、相手ベンチをにらみながらの采配は、智将同士の腹の探り合いであり、そこも野球観戦の大きな魅力だ。
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野村スペシャル
特に「左殺し」といわれる左の救援投手は、ワンポイントの華と言ってもいい。
その左殺しを最大限に生かしたのが、ID野球の先駆けである野村克也監督だった。
阪神監督時代、野村スペシャルと呼ばれた妙手が「遠山↓右投手↓遠山」のリレー。初めて実現したのは1999年5月19日の広島戦で、いきなりはまった。
5点リードで迎えた7回、無死満塁のピンチを招いた。左の強打者・前田に対し、左腕・遠山を送り二ゴロに打ち取った。続く1死一、三塁で右の大砲・江藤を迎え、右投手の伊藤にスイッチ。ここで遠山を下げず、一塁の守備に就かせた。
伊藤は江藤を三ゴロに仕留めた。2死一塁となり、打席には左のスラッガー・金本。すると再び遠山を一塁からマウンドへ上げ、左腕は三ゴロでピンチを切り抜けた。
翌2000年シーズンでは「遠山↓葛西↓遠山」の一人一殺リレーが何度か見られた。「遠山↓葛西↓遠山↓葛西」と、2人が反復するケースもあった。
なお、現在の公認野球規則3・03では、投手交代についてを以下のように規制している。
「同一イニングでは、投手が一度ある守備位置についたら、再び投手となる以外他の守備位置に移ることはできないし、投手に戻ってから投手以外の守備位置に移ることもできない」
ようするに、野村スペシャルで一人の投手が登板できる回数は、1イニング最大2度まで。「遠山↓葛西↓遠山↓葛西↓遠山」のような3度目は許されない。当然野村監督はこのことも熟知しており、その上での奇策だった。
野村監督はヤクルト、南海監督時代にも同様の継投を行っている。野村ID野球に大きく影響を与え、野村南海のヘッドコーチを務めたドン・ブレイザーも、阪神監督時代などに同じ継投を披露していた。
ルール変更の背景
ルール変更の背景にあるのは、メジャーリーグ機構が様々な方法で推し進めている試合時間短縮。確かにイニング途中の投手交代は、試合進行を遅らせることにはなる。
一方で野村監督自身が「弱者の兵法」とも口にした、知恵を駆使した作戦は封じられることとなってしまう。
ビデオ判定や申告敬遠なども含め、メジャーリーグで導入された新ルールは、数年遅れで日本プロ野球に輸入されるのが慣例だ。
米メディアによれば、新ルールは早ければマイナーでは今季、メジャーでは来季から導入される可能性があるという。メジャーの選手会は反対の姿勢というが、交渉の行方次第ではまた野球の魅力が一つ失われかねない。
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[文/構成:ココカラネクスト編集部]