ロッテのマイク・ボルシンガーの真骨頂は「ゴロを打たせる」ことにある。6月2日、ZOZOマリンスタジアムでの広島戦で…

 ロッテのマイク・ボルシンガーの真骨頂は「ゴロを打たせる」ことにある。6月2日、ZOZOマリンスタジアムでの広島戦では7回を投げ、15個のゴロアウトを積み重ねた。以降も投げるごとにゴロアウトの山を築き、ここまで(8月31日現在)11連勝を含む13勝(2敗)、防御率2.45と大活躍。最多勝と最優秀防御率のタイトル奪取も現実味を帯びている。



現在、パ・リーグトップの13勝をマークしているマイク・ボルシンガー

 ボルシンガーは言う。

「自分にとってまず大事なのがQS(※)で、その上で自分に勝ちがつけばそれ以上にうれしいことはありません。アウト、ヒットに関わらず、60パーセント以上ゴロを打たせることができれば、本当に納得したゲームとなります。5回を投げて、アウトの半分以上を三振で取るより、たくさんゴロを打たせて6、7回と投げる。それが僕の持ち味だと思っています」
※QS(クオリティー・スタート)とは、先発投手として6イニング以上を投げて自責点3以内に抑えること

 来日1年目、ややカット気味に動くストレートの球速は140キロ台前半にとどまるが、ナックルカーブとスライダーを織り交ぜ、ゲームを支配している。

「どうすればゴロを打たせられるか。そのことをいつも考えて投げています。自分はパワーピッチャーのように速いボールは投げられないし、ボールが高くなればフライになり長打を打たれる確率が高くなります。とくにこの球場(ZOZOマリンスタジアム)は風の影響を受けるので、しっかりとボールを低めに集め、緩急をつけることを大事にしています」

 さらにボルシンガーは緩急について、「同じ球種でもスピードに変化をつけています」と語る。

「相手をだますというか、打者には球場で表示される球速以上の感覚を持たせたいですからね。そのためには緩いボールを見せることが大事で、ゲーム序盤に88マイル(約142キロ)程度のストレートを低めに見せながら、終盤に向かって90マイル(約145キロ)に切り替えたりします。その使い分けをすることで、打者は92マイル(約148キロ)くらいに感じるのではないかと思っています」

―― 球速を落として投げることに怖さはないですか。

「そこが大事なところですからね。怖くはないですよ。自分は変化球でストライクが取れるのでストレートも生きますし、それも自然に動くので、それが利点になっているところはあると思います」

 こうして投球術を駆使し、ゴロアウトの山を築く”グラウンドボール・ピッチャー”は守備だけでなく、攻撃にもリズムをつくり出している。

 鈴木大地が「テンポよくアウトを取って投げてくれるので、攻撃のリズムはよくなります」と言えば、中村奨吾も「攻撃と守備のリズムがよくなって、いい影響が出ていると思います」と続く。

「ゴロが多いと内野手の足も動きますし、守備で失点したとしても、マイクはだらだらせずにテンポよく投げてくれるので、守っていても『よし、次の回で反撃だ』という気持ちになれるんです」(中村)

 開幕からショートを守り続けるルーキーの藤岡裕大も「マイクはボール球も多くありますが、投球間隔が短いのでリズムがつくれるんですよね。なので、野手はいい感じで打席に入れていると思います」と語る。

 藤岡は先述した6月2日の広島戦で、実に8個のショートゴロをアウトにしたのだった。

「さすがに1試合8つは多いですね(笑)。だいたい1試合で3個から4個ぐらい……。そういう意味で、マイクのときはいつも以上に緊張感を持って準備をしています。打球が飛んできそうな雰囲気をかなり感じます」

 ボルシンガーが投げればチームの4番が打つ――今シーズン、井上晴哉はボルシンガーの登板した試合で打率.315、7本塁打、19打点の好成績を残している。井上は言う。

「野球のプレーでいったら、ゴロアウトの方がリズムをつくりやすいですよね。守るときも、ゴロが多くなるだろうと計算できますし、ホームランを打たれるプレッシャーも少ない。リズムよく試合に入っていけるので、それがバッティングにもつながっています」

 ちなみに、ボルシンガーが登板したときの内野陣の失策数はわずか4個で、援護率(※)5.52はリーグ2位の数字である。
※援護率とは、投手がどれだけ打線の援護を受けたかを示す指標で、その投手の登板中に味方打線が挙げた得点を9イニングあたりで示したもの

 一方で、相手チームの選手はボルシンガーのピッチングをどう見ているのか。西武の秋山翔吾はボルシンガーと12打席で8打数1安打4四球。7つのアウトはすべて内野ゴロとなっている。

 秋山は「やられてますよね」と言い、こう続ける。

「自分のなかで『とらえた』と思った打球が上がらないんです。ミートしたときの実際のボールの位置が違うのだろうなと。手元でちょっと動いている感じはします。もちろん、対応は毎回しているんですよ。それでも結果が出ないということは、自分の想像力をもっと高めないといけませんね。見えたものを振りにいっての今の結果なので……ボール1個分、詰まってもいいから『こう動くだろう』と予測して下の方を打ちにいくとか。バッターとしては一番怖いことなんですけど、そういうことが必要だと思っています」

 少し話は逸れるが、ボルシンガーのピッチングを見ていると、メジャーで活躍したグレッグ・マダックスに似ていると感じることがある。フィニッシュで体が一塁側に流れることなく、真っすぐ前を向いているところがそっくりである。

「(マダックスは)自分と同じくコントロール重視のタイプだったので、似たようなフォームになるのは必然かもしれません」

 マダックスはメジャー通算355勝を挙げた偉大な投手で、ボルシンガーがドジャースに在籍していた2014、15年にはチームのGM補佐という要職に就いていた。

「”精密機械”と言われていた方ですからね。バッティング投手をしていても『次はここに投げるから、打者はここへ打つよ』と。外野で打撃練習を見ていても、投手の投球動作と打者のスイングを見て、『こっちへ打球がいくよ』とか、ズバリ言い当てるんです」

 ボルシンガーも打者の観察と研究に長けたピッチャーで、やはり共通する部分があるのだろう。

 シーズンも終盤戦に突入し、クライマックスシリーズ争いを繰り広げているロッテにとって、ボルシンガーが登板する試合は確実に勝ち星を計算したいところである。

「これまでと同じように早いカウントで打者を追い込む攻撃的なスタイルは変えずにやっていきたいですね。そして重要な試合で『ボルシンガーは本当にすごいな』というピッチングをしたいですね。とにかくしっかりと投げ、いい形でシーズンを終わらせたいと思っています」

 アメリカでは「ストライクを投げろ」「スピードに変化をつけろ」「ダラダラ投げるな」「ゴロを打たせれば、あとは野手の仕事だ」と、若いピッチャーにそう教える投手コーチは多い。ボルシンガーはこれを忠実に守っている。

「自分もこの4つの要素は大切だと思っています。いくら160キロのストレートを投げることができても、パワーだけで勝負すれば、それはただ投げるだけの選手で、バッターに打たれてしまいます」

 ボルシンガーの投げる姿を見ていると、150キロを超える投手のピッチングとはまた違った楽しさを覚えるのである。