1894年に誕生したIOC(国際オリンピック委員会)の創設日にあたる「オリンピックデー」の6月23日、東京五輪に向けてスポーツクライミングが新たな一歩を踏み出した。



男子コンバインド初代王者に輝いた楢﨑智亜

 東京五輪でのスポーツクライミング実施種目であるコンバインドにフォーカスした『第1回コンバインド・ジャパンカップ』が6月23日~24日、岩手県盛岡市にて開催。2年後の東京五輪を見据え、「スピード」「ボルダリング」「リード」の3種目の複合成績で争われる今大会は、男子は楢﨑智亜(ならさき・ともあ)、女子は野口啓代(のぐち・あきよ)がコンバインド初代王者に輝いた。

 この大会は、初日に男子25選手、女子13選手で予選を実施。スピードでは2度のタイム計測、ボルダリングでは4課題、リードでは1課題で順位を争い、その上位6選手が大会2日目の決勝戦でふたたび3種目に臨んだ。

 3種目の総合順位は、選手それぞれの『各種目の順位を掛け算』で算出した複合ポイントで決められ、数値が小さい選手ほど上位になる。第1回コンバインド・ジャパンカップで勝負の行方に大きく影響したのも、この複合ポイントの算出方法だった。

 たとえば3種目すべてで6位の選手と、1種目は1位で残り2種目は14位だった選手がいた場合、複合ポイントを各順位の『足し算』で決めるのならば、前者は18ポイント(6位+6位+6位)、後者は29ポイント(1位+14位+14位)になる。

 ところが、これを『掛け算』で決めると、前者が216ポイントに対し、後者は196ポイントで順位は入れ替わる。『掛け算』で行なう狙いは、出場選手数が20~30人ほどであれば、3種目にバランスよい成績を残す選手よりも、1種目にズバ抜けた成績を出せる選手が上位にくるようにということだ。

 男子予選では、楢﨑智亜はリードでロープをクリップにかけ忘れるミスをして21位に沈んだが、スピード1位、ボルダリング2位が効いて複合ポイント42点で予選をトップ通過。予選3位の高田知尭(たかた・ともあき)もスピードは24位と大きく出遅れたものの、リード3位、ボルダリング1位で挽回して複合ポイントを72点にとどめた。

 これに対して、藤井快(ふじい・こころ)はスピード6位、ボルダリング7位、リード8位で、総合ポイント336点の8位。ボルダリング・ジャパンカップ3連覇中の得意種目で順位を上げきれなかったことが響いたとはいえ、3種目に安定したパフォーマンスを見せながらも決勝進出を逃すことになった。

 男子決勝戦は智亜、明智(めいち)の楢﨑兄弟が熾烈な優勝争いを演じた。最初に魅せたのは兄・智亜だ。スピードで自身が持つ日本記録を0秒60更新する6秒87をマーク。危なげなくトップに立つと、2種目目のボルダリングでも3課題目まで完登を重ね、この種目の1位も”鉄板”かと思われたが、4課題目で完登とゾーン獲得を逃して4位となる。

 一方、スピードを3位で滑り出した弟・明智は、2種目目のボルダリングでただひとり全課題を完登して1位。この時点で複合ポイント4点の智亜を抜いてトップに立ち、最終種目のリードに臨んだ。

 予選のリードはただひとり完登していた楢﨑明智だったが、決勝では先にアテンプト(トライ)した智亜が獲得した高度に2手届かず2位。この種目で1位になった兄・智亜が複合ポイントでも再逆転し、「達成感、ハンパないですね。明智とこんな接戦になるとは。楽しかったけど、プレッシャーがすごかった」と笑顔を弾けさせた。

 女子は出場選手の複合でのレベル差が大きく、野口啓代が1位、地元優勝の期待がかかった伊藤ふたばが2位。野中生萌(のなか・みほう)が4位となった。国内女子では唯一9秒台の自己ベストを持つ野中は、得意のスピードで1位を取れなかったことが響いたが、「残念ですけど、収穫もありました」と口にする。

 スピードの予選はタイムアタック形式だが、決勝では対戦形式で実施される。1回戦は6選手が2人一組で競争し、勝者は次のラウンドに進出。3人の敗者のなかで最速タイム1名を含めた4名で争う準決勝を経て、決勝・3位決定戦が行なわれる。このため、スピードで1位を取るには、3レースで勝たなければならない。野中は実践のなかで掴んだ課題を明かす。

「疲れが出ちゃいましたね。2レース目はセーブして登ったけど、それでもレースごとのインターバルが短いこともあって、腕が回復しきらなかったです。ボルダリングやリードでは、腕がこれほどパンプすることは少ないんですけどね。

 コンバインドは1日で3種目をやるんで、腕を含めた体力面を強化していかないとなって思いました。走ったりする体力ではなくて、練習でも1日のなかで、たとえば午前中はスピードをやって、午後はリードとボルダリングもやるようにする必要があるなって感じています」

 初めて行なわれたコンバインド大会を経験することで、野中のようにフィジカル面の課題を感じたと答える選手は他にも数多くいた。楢﨑智亜が「背中と大腿部の筋肉痛になりました。ボルダリングでは(筋肉痛に)ならないので、それだけ負荷がかかっていることなので、ここから鍛えていきたい」と言えば、伊藤ふたばは「疲労感や種目間の時間の取り方が勉強になった」と語っている。

 予選の初日、決勝の2日目と、盛岡は晴天に恵まれて気温は30度近くまで上がった。屋外に設置されたスピードとリードのクライミングウォールでの競技は、2020年7月24日の開会式から8月9日までの17日間で行なわれる東京五輪を見据えると、いい経験になったのではないだろうか。

 そして、第1回大会を行なったことで、選手だけでなく主催者側にも今後の改善点が浮き彫りとなった。なかでも、リード・スピード会場から400mほど離れたボルダリング会場となった体育館には改善の余地が大いにあるだろう。

 体育館には空調設備がなく、演出のために暗幕が張られて窓が開かない状況のため、立ち見客が出るほどに客席が埋まると、ジッとしているだけで汗が流れ出るほど。ボルダリングの課題をつくるセッター陣は、「体育館のなかがこれ以上熱くなると、課題をつくったときの狙いとは変わってしまうかも」と心配していた。競技が始まってしばらくすると照明などで室温はさらに上がり、孫を連れた老夫婦が暑さのあまり途中で体育館を退出する姿もあった。

 また、体育館に隣接された競技前のウォーミングアップ用テント内も改善の余地はある。「蒸し風呂のようで暑すぎてアップしていたら気持ち悪くなっちゃって」と、万全のコンディションで競技に臨めなかった選手もいた。

 コンバインド・ジャパンカップの決勝戦には、リード・スピード会場と、ボルダリング会場を合わせて1382名の観客が来場した。当地のリード・スピードの施設は立派で、『スポーツクライミングの聖地・盛岡』を掲げている。名実ともにそうなれるかは、この第1回大会で得た教訓を生かしながら、選手と観客に優しい大会をつくれるにかかっているのではないだろうか――。