23・24日、岩手県営運動公園及び岩手県勤労身体障がい者体育館(いずれも盛岡市)で、第1回コンバインドジャパンカップが行われた。コンバインドとはスピード、ボルダリング、リードの順に競技を行い、その順位を掛け合わせた値が少ない選手が上位となる競技方式で、東京2020オリンピックでもこのフォーマットが採用される。女子では地元盛岡出身の伊藤ふたばらを抑え、全競技を3位以内にまとめた野口啓代が貫禄の優勝。男子ではスピード、リードの2種目で1位を獲得した楢崎智亜が頂点に立った。2016年の世界選手権をはじめ国際大会では多数の優勝経験を持つ楢崎は意外にもこれが国内公式戦初優勝。弟の楢崎明智も2位に入り、兄弟でワンツーフィニッシュを決めている。

 先に行われた女子決勝には、午前開始にもかかわらず立ち見が出るほど多くの観客が訪れ、第1種目のスピードでは、予選を首位通過していた伊藤がトーナメント準決勝で自己ベストを上回る10秒08を記録。決勝でも野中生萌に勝利し、地元の観衆の前で好スタートを切った。第2種目のボルダリングでは、序盤の両手で押さえこむランジに苦戦する選手が続出した第2課題を野口が2アテンプトで沈めて一歩抜け出すと、そのまま全完登で1位を獲得。2種目を終えて、伊藤と野口が3ポイントで並んで首位、野中が4ポイントで続き、優勝の行方はこの3名に絞られる。

 最終種目のリードで、できる限りTOPまで近づいて後続の2人にプレッシャーをかけたい野中だったが、中間地点の高度21で力尽きる。次に登る野口は「何回手を離しそうになったか分からなかったけど、優勝したい一心で登った」と終盤の37+に到達し、最終6番手の伊藤の結果を待つことに。伊藤は地元の大声援を背に粘り強く登っていくも、優勝まであと僅かの36+でフィニッシュ。伊藤との接戦を制した野口が栄えある“初代”複合女王の座を射止めた。3位にはリードで終了点タッチの39+で最高高度をマークした15歳の谷井菜月が滑り込んでいる。


スピードファイナルは、2日続けて自己ベストを更新していた伊藤に軍配が上がった。

ボルダリングで1位を獲得し笑顔を見せる野口。

女子表彰台には、伊藤ふたばのほか、予選、決勝ともにリードで1位だった谷井菜月(写真右)が上がった。

 続いて行われた男子決勝では、予選を1位通過した楢崎智がこの日も好調な滑り出しをみせる。順当に勝ち進んだスピードのファイナルで昨日自身が叩き出したタイムをさらに上回り、日本新記録となる6秒87をマーク。1位で第1種目を終える。続いて行われたボルダリングは、第3課題を終えて5選手が3完登で並ぶ混戦模様。迎えた最終第4課題は強傾斜のなかにテクニカルなムーブとパワーが要される難関だったが、4番手に登場した楢崎明は他の選手が足を掛けて進もうとしたポイントをリーチを生かしたランジで突破。そのまま見事に2アテンプトで切り抜け、この課題唯一の完登者となり1位を獲得した。

 優勝の可能性は3ポイントの楢崎明、4ポイントで並んだ楢崎智、緒方良行の3名となって迎えた最終種目のリード。ここでは終盤の高度35以降が勝負のポイントとなったが、5番手の楢崎智が他選手より速いペースでスピーディに登っていくと、最終的に37+まで辿り着く。最終競技者の楢崎明は高度35まで到達するも、「ポケットを上手く捉えられなかった」としっかりホールドを掴みきれずフォール。最後までもつれた兄弟対決は兄・智亜に軍配が上がった。

 はじめてスポーツクライミングを観戦する方も多数見受けられたが、トップクライマーたちの登りに多くの歓声が上がった今大会。選手たちにとってもオリンピックを想定したフォーマットを経験することができ、強化に繋がる良い機会になったはず。記念すべき第1回コンバインドジャパンカップを終えて、2020年がますます楽しみとなった。

前日に日本記録を0.01秒更新した楢崎智亜が、その記録をファイナルで再度更新。



楢崎明智はボルダリング最終課題、他選手とは異なるムーブのランジを選択し、全完登を決めた。

最終種目のリード。楢崎智亜を除く5選手がここからのラストパートで力尽きた。

楢崎智亜・明智兄弟が公式戦初のワンツーフィニッシュ。3位には緒方良行(写真右)が入っている。

 

野口啓代コメント
「最終種目のリードの途中では、今まで経験したことのない疲れを感じて、何回か手を離しそうになりましたが、とにかく優勝したいという気持ちで登りました。3種目の疲労感だったり、精神的なダメージを経験できたことはすごく大きいと思っています。肉体的には辛いですが、もっとコンバインドの大会に出場したり、練習を積んでいかないといけないと思っています。ここで優勝できたことは今後の自信に繋がります」

伊藤ふたばコメント
「地元開催ということで、小さな子どもの歓声や応援の声をたくさん聞くことができて、登っていて楽しかったですし、とても力になりました。2位という結果については、優勝の可能性もあったので、悔しい思いはあります。それでも、スピードで自己ベストを更新できたことは自信になりました。1種目ごときちんと集中することや、競技の合間での疲労の抜き方などこれからもっと工夫をしていきたいです」

野中生萌コメント
「体力的にすごく厳しかった。コンバインドだと種目ごとのウォームアップがいつものようにしっかりはできなくて、競技の間も短いので後半になるにつれて苦しくなってきました。リードは出し切る前に落ちてしまって悔しかったです。このフォーマットを体験できたこと、味わった疲労感などが何よりの収穫だったと思います。これからは1日に複数種目の練習に取り組むなど、体力づくりが大切になると感じました」

楢崎智亜コメント
「国内大会の優勝は初めてなので嬉しいですね。得意のボルダリングで順位を落としてしまって、追い込まれていましたが、最後にリードで挽回できて良かったです。スピードでは6秒台、そして日本新記録を出すことができて、自信になりました。コンバインドは掛け算なので一つ落とすと優勝が難しくなる。世界選手権では単種目ごとの専門選手が出てくるのでもっと厳しい戦いになると思います。弟の明智と最後まで接戦で競うことができて楽しかったです。(兄弟対決を制した感想は?)達成感ハンパないです(笑)」

楢崎明智コメント
「(兄に負けたのは)他の誰に負けるよりも悔しかったですね。大会が始まる前は兄と一緒に表彰台に乗れたらいいな程度に思ってたんですけど、ボルダリングで勝ってしまって、少し夢見ちゃいました。また今日で兄に負けたくない気持ちが強くなりましたね。去年世界ユースでコンバインドを経験していますし、最近リードが好きで結構登っていたこともあって、疲労はあまり感じなかったです。リードもまだ余力があったんですけど、ポケットに上手く指がハマらなくて落ちてしまいました」

緒方良行コメント
「表彰台に上がれたことは嬉しいんですけど、リード次第で優勝という状況まで持ってこれたなかでの3位は悔しいですね。最後に落ちてしまったのはスタミナ切れですね。ボルダリングで体力を使い過ぎてしまいました。(昨年の世界ユースでコンバインドを経験したことは活きた?)疲れることは想定できていたので、疲労に対してネガティブにならなかったのは大きいです。オリンピックはもっとタイトなスケジュールだと聞いているので、それに向けて良い経験ができたと思います」

<女子決勝>

1位:野口 啓代(29/TEAM au)
   6ポイント(S 3位/B 1位/L 2位)
2位:伊藤 ふたば(16/TEAM au)
   9ポイント(S 1位/B 3位/L 3位)
3位:谷井 菜月(14/橿原市立光陽中学校)
   16ポイント(S 4位/B 4位/L 1位)
4位:野中 生萌(21/TEAM au)
   20ポイント(S 2位/B 2位/L 5位)
5位:倉 菜々子(18/私立安城学園高等学校)
   120ポイント(S 6位/B 5位/L 4位)
6位:栗田 湖有(15/私立東京学館新潟高等学校)
   180ポイント(S 5位/B 6位/L 6位)

<男子決勝>

1位:楢崎 智亜(22/TEAM au)
   4ポイント(S 1位/B 4位/L 1位)
2位:楢崎 明智(19/TEAM au)
   6ポイント(S 3位/B 1位/L 2位)
3位:緒方 良行(20/神奈川大学)
   12ポイント(S 2位/B 2位/L 3位)
4位:原田 海(19/神奈川大学)
   72ポイント(S 4位/B 3位/L 6位)
5位:杉本 怜(26/北海道山岳連盟)
   120ポイント(S 6位/B 5位/L 4位)
6位:高田 知尭(23/鳥取県山岳・スポーツクライミング協会)
   150ポイント(S 5位/B 6位/L 5位)

※上段左から氏名、年齢、所属等
※下段左から各種目を掛け合わせた複合ポイント、各種目順位(S=スピード、B=ボルダリング、L=リード)

CREDITS

文・写真

編集部