第70回有馬記念・G1は12月28日、中山競馬場の芝2500メートルで行われる。早見和真氏原作の大ヒットドラマ「ザ・ロ…

 第70回有馬記念・G1は12月28日、中山競馬場の芝2500メートルで行われる。早見和真氏原作の大ヒットドラマ「ザ・ロイヤルファミリー」で注目を集めた北海道・日高地区出身の馬。昔ながらの伝統ある牧場出身で、有馬記念を制した名馬を5回にわたって取り上げる。第2回は07年の勝ち馬で蛯名正義騎手(現在は調教師)が騎乗したマツリダゴッホ。

 雨上がりの中山競馬場。11万人を超える観衆が見守る中、最も驚いていたのは、ほかならぬ蛯名だった。「引き寄せたい」とまで思ったゴール板を通過した瞬間、頭に浮かんだのは「アレッ?」という言葉だけ。ワンテンポ置いて勝利を認識すると、右手の指を突き立て、馬の背で伸び上がるようにして喜びを表現した。当時38歳の鞍上にとって、01年のマンハッタンカフェ以来、2度目の勝利だった。

 体調の良さだけは、自信があった。「追い切りでの感触は、天皇賞(秋=15着)の時と比較にならないくらい良かった」。あとは、それをどう生かすかを考えるだけだった。

 「(ハナに)行ってもいいと思っていたけど、ノリちゃん(横山典)が先行したので、内に入れて抑えていこうと思った」。内枠を利して、素早く先行馬の背後へ。「3番」は、過去最多の9勝(当時)を挙げている“ラッキーナンバー”でもあった。かかり気味の追走も、ギリギリ我慢。最後の粘りにつなげた。同じ中山で行われた06年秋のセントライト記念は4コーナーで落馬の憂き目にあった。「あの時は、みんなに迷惑をかけた。それでも、僕を戻して(乗せて)くれた。何とかしたいと思っていたけど、まさかここでやれるとはね」と蛯名。兄妹対決で注目された妹ダイワスカーレット(2着)と兄ダイワメジャー(3着)、1番人気のメイショウサムソン(8着)、ファン投票1位のダービー馬ウオッカ(11着)などG1馬が6頭そろう頂上決戦で最高の“恩返し”をした。「1年に1日くらい、いいことがあってもいいよね」と満面の笑みを見せた蛯名。01年のマンハッタンカフェ(3番人気)も同じ「12月23日」だった。2着にアメリカンボス(13番人気)が入り、当時のグランプリ馬連最高配当(4万8650円)を記録。今回の3連単は何と80万880円。またもや、ビッグな“クリスマスプレゼント”となった。

 驚いたのは騎手だけではない。華やかな優勝馬の口取り写真には、オーナーも生産者もいない前代未聞の事態となった。高橋文枝オーナーは体調を崩し、岩手県内の自宅でテレビ観戦。「あまりにビックリして、ゴールシーンでは声も出なかった。(来場できず)結果的に失礼なことをしてしまいました」と夫の福三郎氏が電話口で話した。一方、開業23年目にして初のG1勝ちとなった岡田スタッド(北海道新ひだか町)の岡田牧雄社長は「正直ビックリした。テレビの前で、ずっと絶叫していました。以前はヒョロッとした体形だったのが、ようやく大人になってくれました」と同じく電話で喜びの声を寄せた。岡田スタッドはその後、サウンドトゥルー、タイトルホルダー、ブローザホーンなどのG1勝ち馬を生産し、“強い日高”を印象づけた。デアリングタクトの才能を見いだし育て上げ、牝馬3冠を成し遂げたことでも有名だ。

 マツリダゴッホは10年1月4日付で競走馬登録を抹消。通算27戦10勝(うち海外1戦0勝)。ラストランは、09年の有馬記念7着だった。日本競馬界に偉大な功績を残した種牡馬、サンデーサイレンス産駒の最終世代。マツリダゴッホ自身も種牡馬として、ロードクエスト、マイネルハニーなどの重賞勝ち馬を出した。

 重賞6勝をすべて中山で挙げた“中山の鬼”は、9番人気の低評価を覆す波乱を演じた。忘れた頃にやって来る「波乱の有馬記念」。今年も全国の穴党たちが大きなクリスマスプレゼントを求めて、「第二のマツリダゴッホ」を探し始めている。