「サブロ~~~~~~」と長く名前を伸ばすコールが代名詞だった、元ロッテの名物場内アナウンス担当・谷保恵美さん(59)が…
「サブロ~~~~~~」と長く名前を伸ばすコールが代名詞だった、元ロッテの名物場内アナウンス担当・谷保恵美さん(59)が、カフェオーナーとして第二の人生を踏み出している。91年から33年間で通算2100試合の公式戦を担当し、惜しまれつつ23年12月にロッテを退団。今年9月25日に千葉県市川市行徳で「カフェ2lipan(トゥリパン)」をロッテ時代の同僚でもある村岸潤子さんと共同経営で開いた。野球愛がさりげなく伝わってくるお店で谷保さんに話を聞いた。
慣れ親しんだスタジアムの放送室を離れた谷保さんは、オーナーを務めるカフェでゆっくりと丁寧にコーヒーを入れる日々を過ごしている。
「2人で心地よく楽しくやっています。自分がコーヒーが好きなので、入れてみておいしいと思ってもらえるかどうか、いつも気になります」
新たな“ホーム”となった店内で柔らかな笑みを浮かべた。
カフェを経営するのは漠然とした夢だった。「元々、カフェが大好きで、日本や韓国のすてきなカフェを調べては訪ねてたんです。村岸さんはお菓子作りが好きだったので、お仕事を辞めたら一緒にやりたいねと10年くらい前から話してたんですが、ほんとにできるなんて」と声を弾ませる。
退団後のリフレッシュ期間を経て、コーヒーの専門知識を学び、4月から開店に向けて本格始動。東西線の行徳駅から徒歩5分ほどの好立地に元コーヒー専門店の空き物件を見つけると、ペンキを塗ったりタイルを貼ったりのDIYでこだわりの空間を作り上げた。
「いろいろ作って開店したので、すごくかわいい子どものような感じになってますね」
スコアボード風に書かれたメニュー。チューリップの花と野球のボールが描かれた店のロゴ…。野球愛がさりげなく伝わってくる。店名のトゥリパンはハンガリー語でチューリップを意味する。
お店を9月25日にオープンさせてから数日後、シャッターを開けると行列ができていたことがあった。ロッテファンのお客さんがたまたま来店し、球界を離れたレジェンドの開店情報をSNSで発信。千葉での試合観戦前に大勢のファンが立ち寄ってくれたのはうれしいサプライズだった。
お客さんの注文を受けて番号札を手渡し、呼び出すのは主に谷保さんの担当だ。
「0番をお渡しすると“あっ荻野さんの番号だ”って言ってもらったり。たまに“4番(よばん)のお客さま~”と呼んだりすることも。様子を見ながら、そちらの方が喜ばれるかなという方にはそうしてます」
場内アナウンスをほうふつとさせる美声での呼び出しは野球ファンにはたまらないサービスだろう。
「野球の世界で育ってきた私たちができることはなんだろう、何か恩返しができれば」と新たな展開にも着手。アナウンス業務で必須だった野球のスコアの付け方を指南するイベント「野球女子のための簡単なスコアシートの付け方初級編」をコーヒーとケーキ付きで企画したところ、すぐに定員が埋まり驚かされたという。
「今後は“裏メニュー”として来店したお客さまに、野球チームのスタメンなどをお呼びするサービスを告知しようと考えてます。結婚式の呼び出しなんかもよく頼まれるんですよ。お店なので有料にはなりますが」。アイデアを楽しそうに披露した。
ただ、野球推しを前面に出すつもりはない。「やっぱり地元の方にも足を運んでいただきたいですから。かわいがってくださるお客さんの心地よい空間になってくれれば。ちょっとコーヒーを飲みたいな、ケーキを食べたいなと来ていただきたいです」
開店にあたっての2人の約束事は「2人で運営できる規模」「自分たちが楽しく」ということ。定休日は設けているが「20代や30代で始めるわけじゃないので、自由にお休みを決めたり、お互いの大事な時はお休みしよう」と話している。
91年から33年間にわたり場内アナウンスを担当し、1軍公式戦2100試合を駆け抜けてきた谷保さん。第二の人生の舞台となるカフェでは、少し肩の力を抜いてゆっくりほどよいペースで歩んでいく。
◇谷保恵美(たにほ・えみ)1966年5月11日生まれ。北海道出身。帯広三条高、札幌大女子短期大時代は野球部マネジャーとして活躍。90年にロッテオリオンズに入社し、91年から場内アナウンスを担当。2軍担当を経て91年8月9日に1軍デビュー。2022年7月17日に1軍公式戦通算2000試合を達成。23年の本拠地最終戦で2100試合に到達。33年間務めた場内アナウンス担当を引退し同年12月に退職。25年9月からカフェを営む。