日本最大級の野球屋内練習場「SPONOBA」に設置された“畳の間” 最新鋭の施設には「畳の間」が用意されている。日本最大…

日本最大級の野球屋内練習場「SPONOBA」に設置された“畳の間”

 最新鋭の施設には「畳の間」が用意されている。日本最大級の野球屋内練習場「SPONOBA(スポノバ)」のオープニング記念イベントが5日、東京都墨田区で行われ、元巨人監督・高橋由伸氏と前ロッテ・荻野貴司外野手がゲストで参加した。最新鋭の設備が揃う中、畳の練習場が注目を集めた。

「SPONOBA」を立ち上げたトレーナーの木村匡宏氏は「この畳の間は、どうしても作りたかったんです」と言う。世界のホームラン王である王貞治氏(現ソフトバンク会長)が巨人での若手時代、1軍打撃コーチだった荒川博氏と畳に血がにじむほどの特訓を繰り返して一本足打法を完成させたのは有名な話である。

「王さんと荒川さんが練習していたのが畳の上。足の裏は大事で、凄く力が伝わってきます。足の裏から入ってくる情報は非常に重要なんです」。壁には「氣」の文字が書かれた額縁があり「畳が持っているクッションの柔らかさと、“氣”の字から醸し出される日本の精神性って凄く大事だと考えています」と説明した。

 王氏と荒川氏の特訓について、選手の体力や能力に合わせてデータ分析してきた木村氏は「試合後に毎日取り組んで、一番力が入る部分を探し続けた」と解説。「王さんの場合は、ちょっと足が上がったポジションがたまたま見つかったんです」と一本足打法が誕生した背景に言及した。

前ロッテ・荻野がプロ10年目で初めた規定打席に到達できた背景

 同じことを、2019年からサポートする荻野にも施したという。打席で構えた際、つま先はベースラインに対して90度となるのが通常の形。いわゆるスクエアスタンスである。ただ、荻野の場合は「90度では体の収まりが悪かった」と振り返る。オープンスタンスもクローズドスタンスも当てはまらなかった。

 そんな中でヘッドの向きやグリップの位置なども試行錯誤。見つけたポイントが、つま先を捕手寄りに約45度傾ける変則的なスタンスだった。「最適な位置で固定できると、最適なパワーポジションが見つかるんです」。荻野も「体に力が入って、フラフラしなくなった。カチッとまとまる感じになりました」と手応えをつかんだという。

 木村氏が「これがベースにあることで怪我しにくくなる。安定性にもつながる」と言うように、それまで怪我での離脱が多かった荻野は動きが安定して同年はフル回転し、プロ10年目で初めて規定打席に到達。キャリアハイの打率.315をマークし、2年後の2021年には最多安打と盗塁王のタイトルを初めて獲得した。王氏が自分に合った打法で飛躍したように、最適なスタンスを身につけてタイトルホルダーとなったのだ。

「畳の間」はスイングの練習だけではない。クッション性が高いため、小中学生は守備のダイビングでの受け身の練習も行うという。「王さんの地元であり、少年野球の発祥の地である墨田区。たくさんの方に使っていただきたい」。現代野球に似つかわしくない畳の練習場設置には、しっかりとした理由がある。(尾辻剛 / Go Otsuji)