ミラノ・コルティナ五輪の前哨戦となるフィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナルは4日に名古屋市IGアリーナで開幕…
ミラノ・コルティナ五輪の前哨戦となるフィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナルは4日に名古屋市IGアリーナで開幕する。10月から行われたGPシリーズ6戦の総合成績上位6人で競う大会で日本代表争いも激化。2010年バンクーバー五輪男子代表の織田信成氏(38)が五輪本番に向けて、今大会でスポーツ報知の評論家デビュー。世界に挑む日本勢の現状や自身の五輪経験を熱く語った。
順位が代表選考に大きく関わるGPファイナル。シングルは男子が鍵山優真と佐藤駿、女子は坂本花織、千葉百音、中井亜美、渡辺倫果の4人で臨む。GPシリーズ6戦を通した今季の印象を、織田氏が語る。
【鍵山のここに注目】
「今季、いいプログラムを2つそろえています。オリジナルの音楽に彼にしかできないスケーティングの美しさ、エッジワークで魅せ、フロアで踊っているような雰囲気がとてもいい。振付師のローリー・ニコルさんはスケート本来の美しさを引き出すタイプの先生で、彼に合っています。1つ心配を挙げれば、鍵山選手はまだ曲にとらわれながら滑っているように見えます。彼は、スケートに音楽が自然と乗ってくるような滑りが特徴。ただ今季は曲を追いかけるように見え、彼本来の良さがもっと出せると感じています」
【佐藤は心象良し】
「足のケガ【注1】がありながら、しっかりと計画を立てて練習したことがプラスに働いたのではないでしょうか。段階を踏んで強化している自信からか、今季はとても落ち着いている印象。持ち味であるジャンプの安定感をコンスタントに出せています。そして安定してノーミスの演技を積むことで、演技構成点の面でもジャッジにいい心象を与えている。このまま自信を持って演技ができれば、より高い演技構成点を引き出せると思います」
【女子は6人中4人が大技の使い手】
「昨季に続きハイレベルな戦い。中井選手や渡辺選手ら、米国選手含めて6人中4人が大技のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を跳ぶことができます。五輪に向けて、また一段とレベルが上がった印象です。その中でも坂本選手は、やはり強いと思わせる1人。今季限りでの現役引退を表明していますが、一つ一つの演技に気持ちが乗っていることが目に見えて分かります。1つの試合をかみしめるように滑っていて、この試合で出し尽くしたいという気持ちが安定感に繋がっているのではないでしょうか。17歳の中井選手もトリプルアクセルを決めれば、その他のジャンプの安定感、質という武器を生かせると思います」
【独特な緊張感】
織田氏にとって五輪シーズンは苦い思い出がある。初出場だったバンクーバー五輪のフリーで“まさか”のハプニングにも見舞われた。自身の経験から、後輩たちへ助言を送る。
「オリンピック、なんかあったかな? ちょっとあんまり覚えてないけど…というのは冗談(笑)。靴紐が切れたのはさすがに覚えています。僕は自分の順位や点数のことばかり考えて、余裕がなくてそういうことが起きた。いい結果を求めるためには、一度立ち止まって、自分がスケートをしている意味を考える時間があってもよかったかなと思います。周囲から『五輪、五輪』と言われれば、当然重圧を感じます。もし今、つまずいているなと感じている選手がいれば、初心に返る時間があってもいいかもしれません」
母国開催での勝負の3日間が、幕を開ける。織田氏は、男女ともに複数のメダルを期待する。
「国内でのGPファイナルには、多くのお客さんが駆けつけてくれます。現役を終えた今、あの環境の中で滑れたことは本当にぜいたくだったなと。男子はダブル表彰台を期待しますし、女子も優勝候補の坂本選手を筆頭に千葉選手など、複数メダルが期待できる強い布陣。どの選手も、五輪の代表候補としてアピールできる演技を期待したいです」
【注1】6月末のアイスショーで右足首の骨挫傷を負い、全治約2か月の診断。GPシリーズは痛み止めを服用しながら臨んだ。
◆織田信成の現役時代のハプニング
▽2009年 GPシリーズ中国杯の男子フリーで、ズボンのチャックの調子が悪く、開いたまま演技。貫禄の優勝だった。
▽2010年 初出場のバンクーバー五輪、SP4位から出たフリーの演技中に靴ひもが切れた。約2分間の中断から演技を再開したが減点が響き、総合7位で終え、涙を流した。
◆織田 信成(おだ・のぶなり)1987年3月25日生まれ、大阪・高槻市出身、38歳。関大―関大大学院。元選手の母・憲子さんの影響で7歳から競技開始。2010年バンクーバー五輪7位。06年四大陸選手権優勝。08年全日本選手権優勝。13年に一度引退も22年に復帰。24年に11年ぶりの全日本選手権出場を果たし、25年1月に競技生活に終止符を打った。10年に中学校時代の同級生と結婚。