今年6月に新日本プロレス入団を発表した21年東京五輪柔道男子100キロ級金メダリストのウルフアロン(29)。来年1月4…
今年6月に新日本プロレス入団を発表した21年東京五輪柔道男子100キロ級金メダリストのウルフアロン(29)。来年1月4日東京ドーム大会でのデビュー戦まで残り33日となった。日本の五輪金メダリスト初のプロレスラーはこのほどデイリースポーツの取材に応じ、転身の経緯や決意について改めて語った。対戦相手EVILとのシングルマッチはいきなりNEVER無差別級のベルトを懸けたタイトルマッチに決まったが、勝利への自信を示した。
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野性味あふれる長髪と口ひげに風格が漂う。見るからに盛り上がった胸筋は迫力たっぷりで、巨体を支える下半身もどっしりと安定感を増した。入門から約5カ月、ウルフは自宅から週6日道場に通って練習を積み重ね、プロレスラーとしての礎を一から築いてきた。「太ももがパンパンでジーパンがめっちゃキツい。打撃技もしっかり受けられるように胸板も分厚くなりました。久々に会う人にはゴツくなったって言われます」。体重は120キロ弱と柔道時代の減量前と大きく変わらないものの、10分以上戦うこともあるプロレス仕様の肉体に変貌を遂げた。
今年6月、柔道を引退したばかりの五輪金メダリストのプロレスラー転向は世間に衝撃を与えた。「いつか柔道でやり残すことがなくなったら、プロレスをやりたいと思っていた」。大学時代、プロレス好きの後輩の影響で見始めた新日本にハマり、オカダ・カズチカや内藤哲也の激闘、人の心をつかむマイクに心を奪われた。東京五輪で金メダルを獲得し、苦悩を乗り越えて24年パリ五輪にも出場。「やり切った」と心から思えた折、リングという新たな舞台で戦う選択肢が浮かんだ。
「今まで柔道でも表現してきたけど、まだまだ自分を表現したいなと。この先どうなるかわからないけど、俺が生きている証をここで誰かに見てもらいたい。承認欲求の権化なので(笑)」
7月からは練習生として大会のセコンドにもついている。金メダリストが若手に交じって雑務もこなす姿に最初は観客もざわついたが、徐々におなじみの光景となった。「仕事を覚えたり、試合の流れや選手の動きを見て勉強になります」。そして10月13日の両国大会では、悪徳集団「ハウス・オブ・トーチャー」の悪行にしびれを切らし、ついにリングイン。払い腰やボディスラムで蹴散らし、会場を沸かせた。
因縁が生まれたEVILがデビュー戦の相手に決まった。確かな技術とプロレスIQを誇る極悪レスラーは、自身の名前を冠した必殺技「EVIL」で数々の強敵を葬ってきたが、自分の足で相手の足を刈り上げて後頭部からたたきつける変型の大外刈りといえる。柔道を代表する基本的な技の一つではあるものの、ウルフは「大外刈りって頭から垂直落下する技なんですよ。昔は学校体育の授業で柔道を習う際、最初に大外刈りを教えるって流れもあったけど、本当は初心者にやらせるものじゃない」と危険性を力説。「不意にやるのも危ないし、相手が消耗している時にやるのも危ない。受け身に失敗すれば脳振とうを起こすし、命に関わることもある」と警鐘を鳴らした。
「でも!」。小学1年で柔道の総本山である講道館の春日クラブに入門以来、柔道一筋だった男が強調すべき本題はここからだ。「僕は6歳から22年も柔道をやってるんですよ。大外刈りなんて何万回と受けてきた」。名門の東海大に進み、史上8人目の「柔道3冠」も達成している柔道王は、五輪3大会金メダルのテディ・リネール、全日本王者の王子谷剛志、高校同級生の前田宗哉ら大外刈りの名手とも試合や乱取りを重ねてきた。
「大外刈りで一本負けした記憶がない。なんなら街を歩いていて急に掛けられても投げられない自信があります。起きている間は、大外刈りで投げられるなんて僕の日常にないことなんですよ」
さらに、相手がNEVER無差別級王座を懸けることを提案したことで、デビュー戦が異例のタイトルマッチに決まった。「全く意識してなかったのでビックリしました。ただ、プレッシャーに感じず逆に力に変えていきたい。EVILが知らない大外刈りの返し方も知っているし、それを100%狙っていきますよ」。取材中にどんどんヒートアップしたウルフは鼻息を荒くした。
デビューを前に、柔道出身の大先輩である小川直也のプロレスの試合も「全部見ました」という。ただ、アントニオ猪木、佐山聡の指導の下、格闘技スタイルに進んだ暴走柔道王の試合は異色で「たぶん僕とはスタイルが違うので、あまり参考にならなかったですね」と率直に吐露。「一からプロレスを学んだからこそ、自分の根底にある柔道のエッセンスも取り入れたいという気持ちが芽生えてきた。1・4当日まで楽しみにしてください」。強さと親しみやすさを同居させる五輪王者プロレスラーが、いよいよベールを脱ぐ。
◆ウルフアロン 1996年2月25日、東京都葛飾区出身。米国人の父と日本人の母を持ち、6歳の時に東京・講道館の春日クラブで柔道を始めた。東海大浦安高時代に団体で高校3冠、個人でインターハイ優勝。2017年世界選手権で優勝し、19年に体重無差別で争う全日本選手権を制覇、さらに21年夏の東京五輪で金メダルを獲得したことで史上8人目となる「柔道3冠」を達成した。24年パリ五輪に出場した後、25年6月に引退し、新日本プロレス入団を発表した。柔道は左組み手で、得意技は大内刈り、内股。趣味は料理。181センチ、116キロ。