9月の東京世界陸上男子400メートルで、日本勢34年ぶりの決勝で過去最高の6位入賞の快挙を果たした中島佑気ジョセフ(2…
9月の東京世界陸上男子400メートルで、日本勢34年ぶりの決勝で過去最高の6位入賞の快挙を果たした中島佑気ジョセフ(23)=富士通=が競技の枠を超えてブレイクしている。テレビや雑誌出演など30件以上のオファーで大忙し。中島が25日までにスポーツ報知の単独取材に応じ、趣味やオフのリフレッシュ方法などパーソナルな部分まで語り尽くした。(取材・構成=手島 莉子)
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東京世界陸上で快挙を達成した後も、躍進は止まらない。中島はテレビ出演、取材オファーを30件以上受けるなど大忙しだ。注目を力に変えており「重圧はあまりないですね。陸上を見てくださる方が増えるのは自分にとってエネルギーになります」と頼もしい。大会9日間で国立競技場には計61万9288人が来場。地鳴りのような大歓声が中島の力走を後押しした。
「あれだけの歓声が自分に向けられるって未体験の世界で、自分の殻を破る経験でした。これまで世陸を2回経験していますが一番。過去最高だったって思います」
大活躍のシーズンを終え、オフはメリハリをつけて休むのがジョセフ流だ。
「陸上競技場に足も踏み入れないですし、SNSで陸上情報も見ない。自分が陸上選手ということを一回忘れるくらい、リセットしています。旅行でリフレッシュすることが一番多いですね」
実は、陸上界屈指の読書家としても知られる。癒やしの方法の一つだ。
「1週間に2冊くらい読みます。陸上選手ってゲーム好きが多いのですが、自分は一切やらないですね。アニメもあまり見ないですし、漫画は一冊も読んだことがないんです。完全に映像が提供されていない方が良い。活字は情景描写を通じて、シーンを想像できるので、その作業が自分にとって楽しいです」
最近のお勧めの一冊は、世界陸上の準決勝前に読み終えたという山崎豊子さんの「不毛地帯」だ。
「自分が信じたことは諦めずに貫き通す、という主人公の人物像に惹(ひ)かれました。読書ノートを作って感銘を受けた言葉をメモして、その横に、どんなところが感化されたのか書いたりもします」
読書は競技にも生きている。
「自分は走る前に精密なイメージを作り上げるようにしています。スタジアムの感じや歓声、スポットライト。スパイクを履いてトラックに入って、スタートブロックをセットする。そこまでのイメージを作り、作ったイメージのままやる。想像力は、確実に読書から培われたなって思います」
沿うように行動し、思い通りの走りにつなげるのだ。
世陸の予選で44秒44の日本新記録をマークして準決、決勝と駒を進めた。
「決勝を経験して、メダルとの距離感があまり離れていない、射程圏内にあると確認できました。まだ記録を伸ばせる感覚ももちろん、あります。43秒台は見えてきている。来年はダイヤモンドリーグなどもっと場数を踏んで、世陸や五輪でどうしたら金をとれるのか、模索していきたいですね」
「人間が無酸素運動できる限界は40秒」と言われている。トラック1周400メートルを43~44秒で走るトップ選手はほぼその域に達しており、レース後は数分以上、苦しい状態が続く。過酷な競技を中島は極め続ける。
「きついですが、自分を鍛えるという意味でも良い種目です。自分の弱さと向き合って自己研鑽(けんさん)していく。痛みや苦しみへの恐怖は自分と向き合わないと克服できない。そういったところにも面白さを感じます」
◆小説「不毛地帯」 累計480万部(09年)の山崎豊子さんの長編大作。舞台は終戦後の高度成長期の日本。拷問、強制労働、飢えと悲惨を極めたシベリア抑留から帰還した元軍人が、商社に入社し、戦後日本の経済戦争を戦い抜く物語。
◆中島 佑気ジョセフ(なかじま・ゆうきじょせふ)2002年3月30日、東京都生まれ。23歳。小学生から陸上を始め、立川第一中、城西高から東洋大に進学。22年オレゴン世界陸上は1600メートルリレーで過去最高の4位入賞。23年ブダペスト世界陸上は400メートル準決勝敗退。24年パリ五輪は1600メートルリレー6位入賞。今回の東京世界陸上400メートル予選で44秒44の日本新記録をマーク。日本勢34年ぶりの決勝に進み日本勢過去最高の6位入賞を果たした。父はナイジェリア人、母は日本人。身長192センチ。