「誕生 大関安青錦」<3>ウクライナ出身の関脇安青錦(21=安治川)が初優勝し、大関昇進を確実にした。本割で大関琴桜を内…

「誕生 大関安青錦」<3>

ウクライナ出身の関脇安青錦(21=安治川)が初優勝し、大関昇進を確実にした。本割で大関琴桜を内無双で倒して12勝3敗。優勝決定戦は横綱豊昇龍を送り投げで破り、賜杯を手にした。戦禍を逃れて来日して約3年半。初土俵から所要14場所での大関昇進は、琴欧州の19場所を抜いて史上最速記録(年6場所制以降初土俵、付け出し除く)。あこがれていた大相撲の舞台で結果を出し、母国に朗報を届けた。

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力士になりたい-。「10歳から12歳の間」という小学生時代、安青錦(21=安治川)は偶然見たYouTubeの取組動画に、心を奪われた。取組は02年秋場所11日目。8場所ぶり出場の横綱貴乃花が新大関朝青龍を破った、2人の2度目にして最後の対戦だった。歓喜に沸く客席、表情一つ変えない貴乃花、花道を引き揚げながら「チクショー!」と絶叫する朝青龍。全てが「すごいな」と新鮮に映った。「いつかオレも、あの土俵に立ちたいなって思った」。心が決まった。

23日の九州場所千秋楽で初優勝と大関昇進という、2つの夢をつかんだ。優勝決定戦の相手が、幼少期に心を奪われた1人、朝青龍のおいにあたる横綱豊昇龍だったのは運命的だった。

昨年名古屋場所前の新弟子検査で、すでに背筋は215・5キロに達していた。前傾姿勢を貫きつつ、引きにも落ちない現在の下地はレスリングで培った。ただ「レスリングは一番上がオリンピック。プロスポーツ選手になりたかった。自分は『相撲しかない』と思った。どうやったら力士になれるか調べた。調べものは好き」と、力士になる未来しか描けなくなっていた。

過去の取組動画を、むさぼるように見て研究した。現役では若隆景に憧れ、巡業の支度部屋は必ず隣に陣取り、教えを請うた。若隆景の魅力を「一言でいうと『ザ男』というところ」と日本語の微妙なニュアンスまで把握して説明。巡業では1日6~7時間のバス移動も「エストニアまでの30時間移動に比べれば」と忍耐強い。自らを「日本人よりも日本人」という安青錦が、今日26日の昇進伝達式で正式に大関に昇進する。(おわり)【高田文太】