<プロボクシング:WBC世界バンタム級王座決定12回戦>◇24日◇トヨタアリーナ東京◇観客9227人プロボクシングWBC…
<プロボクシング:WBC世界バンタム級王座決定12回戦>◇24日◇トヨタアリーナ東京◇観客9227人
プロボクシングWBC世界バンタム級1位の那須川天心(27=帝拳)が格闘技54戦目で初黒星を喫した。同級2位の元WBA世界同級王者・井上拓真(29=大橋)に同級王座決定戦で0-3の判定負けを喫した。キックボクシングと総合格闘技で47戦全勝の不敗神話を打ち立てた“神童”が、ボクシングデビュー8戦目で世界王座獲得に失敗した。
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序盤は「天心の日になる」と思われた。1回から左の先制打が火を吹き、井上のアゴをはね上げ、2回にはひざを揺らした。流れが変わったのは3回。距離を詰めた井上の乱打戦に巻き込まれてペースを乱すと、パンチの精度も落ちた。
4回終了時点でドローだった採点は、8回終了時に井上の2-0に傾いた。終盤、那須川は必死の反撃に出たが、井上の技術と経験にペースを覆すことができなかった。試合終了のゴングが鳴ると、判定が発表される前から観客に向かって手を合わせて頭を下げた。
相手は“怪物”井上尚弥の弟で世界戦6度のキャリアを誇る同級屈指の試合巧者。自分の実力が本物であることを証明するには名実ともに最高の試金石だった。「ボクシングといえば井上兄弟。強いやつに勝ってこそ価値がある」と自信をみなぎらせていたが「自分のキャリアの中で一番負けるかもしれない試合」とも口にしていた。
不敗神話も54連勝で止まった。キックと総合格闘技でも47戦全勝。ボクシングでも7戦全勝で世界戦のリングに駆け上がったが、頂は高かった。試合前に「格闘技は地道な作業の積み重ねが大事。急に強くなったりはしない」と語っていた。その教訓を肌で感じた1日になった。
デビューから2年7カ月。白星を重ねてきたが、ボクシングの型や基本動作の習得にもがいた。「スパーリングや日々の練習ではめちゃくちゃ負けている。そんな試行錯誤をしながら人は強くなっていくんだと思った」とも明かしていた。
リングを下りる那須川に大観衆から拍手が沸き起こった。死力を尽くして誇り高く負けたのだ。試合前には「負けても人生が終わるわけじゃない」とも話していた。格闘人生で初めて経験する敗北は、新しい“天心復活神話”の始まりでもある。【首藤正徳】
◆那須川天心(なすかわ・てんしん)1998年(平10)8月18日、千葉・松戸市生まれ。5歳で空手を始め、小学5年でジュニア世界大会優勝し、キックボクシングに転向。14年7月、15歳でプロデビュー。15年5月にプロ6戦目で史上最年少16歳でRISEバンタム級王座を獲得。16年からRIZINにも参戦。18年6月、初代RISE世界フェザー級王者に。22年6月、K-1の元3階級制覇王者・武尊を判定で撃破。23年4月に6回判定勝ちでボクシングデビュー。24年10月にWBOアジア・パシフィック・バンタム級王座獲得。身長165センチの左ボクサーファイター。