<プロボクシング:WBC世界バンタム級王座決定12回戦>◇24日◇トヨタアリーナ東京◇観客9227人WBC世界バンタム級…

<プロボクシング:WBC世界バンタム級王座決定12回戦>◇24日◇トヨタアリーナ東京◇観客9227人

WBC世界バンタム級2位井上拓真(29=大橋)が注目カードの日本人対決を制した。無敗の格闘家となる同級1位の那須川天心(27=帝拳)と同級王座決定戦に臨み、3-0の判定勝利。無敗の格闘家でボクシングを含めて54戦全勝だった那須川にキャリア初の黒星をつけた。24年10月、堤聖也(角海老宝石)に判定負けを喫し王座陥落して以来、約1年1カ月ぶりの再起戦で3度目の世界王座獲得に成功した。

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那須川にキャリア初の黒星をつけた井上は達成感いっぱいの表情だった。昨年10月、堤聖也に判定負けし、王座陥落して以来、1年1カ月ぶりの王座返り咲き。「戻ってきました!」。WBCベルト、WBC特製「サムライベルト」を両肩に巻き、満員の会場を見渡しながら笑みを浮かべた。

WBC独自の公開採点で4回終了時にイーブンと知ると、エンジンをかけた。左フック、ノーモーションの右、終盤には接近戦からの左フックと右アッパーの連打をみせた。那須川を翻弄(ほんろう)するように主導権を握り続けた。井上は「天心選手はキャリアが浅いからと言ってなめずに、本当に強敵だと思って、ここまで追い込んでこれた。1回から本当に強いと肌で感じた。この結果を出せた」と安堵(あんど)感を漂わせた。

堤に敗れた後、24年は休養した。当時のWBC世界同級王者中谷潤人(M・T)との統一戦も実現できず、引退か現役続行かで悩んだ。1カ月以上も熟考し、最終的に現役を続けると決断した。父真吾トレーナー(54)、兄尚弥(32)とも対話し「ここで辞めるのだったら、もう1度。やり切れたかといえば、やり切れていない。辞めていたら悔いが残る。悔いなくやっていこうと思った」と完全燃焼を誓った。

堤戦で手首の靱帯(じんたい)を切っていたことが判明。治療に専念し25年前半の復帰戦は見送っていた。7月に所属ジムの大橋秀行会長(60)を通じて那須川とのWBC世界同級王座決定戦のオファーが伝えられると「自分も盛り上がるカードをやりたかった」と即決した。

10月上旬、小田原合宿で下半身を中心とした強化合宿を敢行した。22年11月の軽井沢合宿以来、約3年ぶりの野外合宿で那須川戦のスイッチを入れた。「ボクシングに対する気持ちが届いていなかっただけ」。キャリア無敗の那須川に初黒星をつけるモチベーションも大きかった。「父も自分にあきらめず追い込んでくれた。結果を残してちょっとでも恩返しできたかな」と感謝した。

WBC暫定、WBA正規に続き、WBC正規と3度目の世界王座戴冠。25年最大の注目を集めた那須川との日本人対決を制し、井上は完全復活を証明した。【藤中栄二】

◆井上拓真(いのうえ・たくま)1995年(平7)12月26日、神奈川・座間市生まれ。父真吾氏と兄尚弥の影響で4歳からボクシングを始める。高校2冠後、13年12月にプロデビューし、福原辰弥に判定勝利。15年7月に東洋太平洋スーパーフライ級王座を獲得。18年12月にWBC世界バンタム級暫定王座奪取も、19年11月に正規王者ウバーリ(フランス)に敗れて王座陥落。21年1月に東洋太平洋バンタム級王座、22年6月にWBOアジア・パシフィック・スーパーバンタム級王座&日本同級王座を獲得。23年4月、WBA世界バンタム級王座を獲得し2度防衛。身長163センチの右ボクサーファイター。