◇米国男子プレーオフ最終戦◇ツアー選手権 最終日(24日)◇イーストレイクGC(ジョージア州)◇7440yd(パー70…
◇米国男子プレーオフ最終戦◇ツアー選手権 最終日(24日)◇イーストレイクGC(ジョージア州)◇7440yd(パー70)
トミー!トミー!トミー!……勝利を確信したギャラリーに自分の名前を連呼されても、グリーンの周りが人々で埋め尽くされても、表情を一切変えなかった。3打リードで迎えた最終18番(パー5)。バーディトライを外した後のタップインのパットが、あまりに長く続いた時間にピリオドを打つ。割れんばかりの大歓声。その真ん中で、トミー・フリートウッド(イングランド)がやっと笑った。
2014年の「WGC HSBCチャンピオンズ」で初出場したPGAツアー。「全米オープン」で4位に入った17年に欧州ツアーで年間王者に輝き、翌18年に主戦場を移した。新天地では上位フィニッシュを重ねながら勝利だけが遠い。4位だった前週の「BMW選手権」までにキャリアで築いたトップ5フィニッシュは実に30回。未勝利の選手としては1983年以降、最多だった。
最終組の2サムで相対し、ともに首位から出たパトリック・カントレーとのレースで、序盤のうちに前に出た。ティショットを大きく右に曲げた前半5番でボギーを喫した後、6番(パー5)から2連続バーディを奪い返す。後続に3打差をつけてハーフターンした直後の10番で第1打を今度は左に曲げて打ち込みボギーにしたが、「11番、12番でスイングを修正できたことが良かった。リズムを少し変えたんだ」と持ち直した。
「でも、僕は何度も負けてきた。3打のリードが十分だとは思えなかった」。トップで最終日を迎えたのは今季3回目。6月の「トラベラーズ選手権」ではキーガン・ブラッドリーの前に敗れ、2週前のプレーオフシリーズ初戦「フェデックスセントジュード選手権」では同組のジャスティン・ローズ(イングランド)に競り負けてプレーオフに進めず3位に終わった。「負けを重ねると嫌なことが頭をよぎる」という邪念に打ち勝ったのは、ティショットのロケーションが“大嫌い”な15番(パー3)。スコアはボギーだったが、グリーンを囲む湖を避け、追われる立場として終盤の後退を最小限に抑えた。
「感情が入り混じって、優勝した実感がなかなか湧いてこない」。終わってみれば「68」で、通算18アンダーの圧勝。キャリア164試合目で待望の1勝を手にした。欧州では7勝を挙げ「PGAツアーで勝つことは踏み出したかったステップだった」と抱えてきた心情を明かす。ただ、それ以上に胸を張ったのは負けた163回で貫いたもの。「勝とうが、そうでなかろうが、長い間、このレベルで継続的にプレーしてきたことを僕は誇りに思ってきた」
そんな真摯な姿勢と人柄は、負けるたびに国を問わず多くのファンを惹きつけた。トレードマークの長髪は、薄毛家系の父・ピートさんを見て「若いうちはロングヘアを楽しもう」と思ったのがきっかけ。その父は、誰からも愛されるフリートウッドのキャラクターの基礎をつくった人だった。「僕が若い頃、父はいつも『アマチュアであれ、プロであれ、まずは良い人間でいなさい。ゴルファーとして優れるのは二の次だ』と話していた。僕はそうありたい」。その教えは今、一番に自身の子どもにも受け継いでいる。
初勝利への扉をたたき続けた34歳は、年間のプレーオフシリーズの全ラウンド終了時に一度も7位以下にならなかった初の選手となった。「これからも学ぶことがある。この1勝がこれから何勝にもつながるものになってくれたらいい。1つ勝たなければ、たくさんは勝てないからね」。一歩目に詰まった想いの大きさは計り知れない。(ジョージア州アトランタ/桂川洋一)