(19日、第107回全国高校野球選手権大会準々決勝 日大三5―3関東第一) 最後の打者は、またしても坂本慎太郎(3年)だ…

(19日、第107回全国高校野球選手権大会準々決勝 日大三5―3関東第一)

 最後の打者は、またしても坂本慎太郎(3年)だった。

 2点を追う九回裏2死。関東第一の3番・坂本が打席へ。4番の主将、越後駿祐(同)は「坂本が絶対に打ってくれる」と次打者席にいた。だが、外野フライで試合終了。

 涙を流す坂本に、越後は「やりきったぞ。前を向こう」と声をかけた。自分に打席は回ってこなかったが、最後は晴れやかな表情だった。

 昨夏の甲子園決勝。延長タイブレークの十回裏、坂本が三振に倒れ、あと一歩で優勝を逃した。「あの悔しさを返し、優勝する」。当時2年生でスタメンだった越後と坂本は、強い気持ちで最後の夏に挑んできた。

 この試合の四回表、先発した坂本が日大三打線につかまり3点を失う。遊撃手としてエースのバックで守る越後は、「負けられないぞ」「気持ちだ」と声をかけ続けた。

 その裏の攻撃、四球で出塁した坂本を、越後がバントで送る。その後、二塁打や相手失策で2点を返す。全員一丸となって反撃に出た。

 チームは一度、目標を見失いかけていた。準優勝したことで、どこか力が入らない。昨秋の都大会で選抜出場を逃し、今春の都大会は初戦で敗退した。

 越後は厳しいことを言い、チームのまとめ役に徹した。「自分たちの目標は何だ? 絶対日本一だ」。みんなと会話し、同じ方向に向かうよう意識を変えてきた。

 だが自身は、東東京大会で4番としての結果が出せず、苦しんだ。準優勝校の主将という重責を担う越後に、米沢貴光監督は「去年は去年、今年は今年」と何度も言い聞かせた。越後も「自分たちは挑戦者。力を合わせ、強い気持ちで戦う」。優勝を心に秘めながら、目の前の試合を大切にして臨んだ。

 その気持ちは準々決勝でも切らさなかった。先頭で打順が回ってきた八回裏、初球を中前にはじき返し出塁。4番で主将の意地を見せた。

 春夏3回出場した甲子園。昨年は先輩に連れて来てもらったが、今夏は自分たちの力でたどり着いた。背番号1を託された坂本は「越後がいたから、ここまで来ることができた。ありがとう」。

 越後もまた、同じ思いだ。「みんなよく頑張ってくれた。感謝しかない。最高の甲子園だった」

 最後の夏、ひとつになり、やりきった。(石平道典)