(第107回全国高校野球選手権大会準々決勝 東洋大姫路1―2沖縄尚学) こぼれそうな涙をこらえるために、無理やり笑顔を…
(第107回全国高校野球選手権大会準々決勝 東洋大姫路1―2沖縄尚学)
こぼれそうな涙をこらえるために、無理やり笑顔をつくっていた。試合後、アルプススタンドへ一礼をすると、涙を流す仲間に声をかけた。「ありがとう」。そして、「ごめんな」。
この一言に、悩み続けた東洋大姫路の渡辺拓雲主将(3年)の思いが詰まっていた。
今春の選抜大会の後、渡辺主将はこんな言葉を漏らしていた。「自分はキャプテンに向いていないんです」
1年生の頃から試合に出続けていたこともあり、昨夏、岡田龍生監督から主将に指名された。
このチームは「個性豊かで明るい」。裏を返せば、互いに厳しく接することが難しい。「(時には)自分が厳しくやらなければならない。けど、厳しく言えないんです」と悩んでいた。
一方、試合中にミスがでると、岡田監督からは厳しい言葉が飛んだ。
いつまで経っても、どんな主将であるべきか、答えは出なかった。悩み尽くした末に、開き直った。「言葉で引っ張ることはできないから、後ろから選手を支える主将になろう」
誰かが監督に怒られたら、すぐにフォローに入った。練習中では笑顔で仲間に話しかけた。兵庫大会の出塁率は5割超と、試合では不動の1番として、結果で背中を見せた。そんな渡辺主将を中心に、チームはまとまった。
4強をかけたこの日。1点差に迫った三回1死一塁から、渡辺主将は右前安打を放ち、好機をつくった。だが、後続を断たれ、その後も強力打線が抑え込まれた。
試合後、渡辺主将は「チームを引っ張れなかった」と悔いていた。それでも、「主将の自分はいい顔をしないといけない」と涙をこらえた。
ただ、仲間たちが「渡辺がいなければここまで来られなかった」「渡辺のおかげ」と口をそろえていると伝えられると、目を真っ赤にして答えた。「本当に仲間が支えてくれた。自分がキャプテンでよかったのかなと悩み続けたけれど、支えてくれたみんなにありがとうと伝えたい」(原晟也)