ある者は子供のときからのあこがれ、ある者は己の力の挑戦-。今年もドラフト会議の季節がやってきた。BIG6.TV では学生野球の聖地とも言える神宮球場で、4年間にわたる激闘を繰り広げてきた東京六大学野球の強者たちの中から、プロ志望届けを提出し…

ある者は子供のときからのあこがれ、ある者は己の力の挑戦-。
今年もドラフト会議の季節がやってきた。BIG6.TV では学生野球の聖地とも言える神宮球場で、4年間にわたる激闘を繰り広げてきた東京六大学野球の強者たちの中から、プロ志望届けを提出した選手にスポットを当ててその想いに迫る。最終第8回は慶大・岩見雅紀選手。リーグ戦通算21本塁打を誇る規格外のパワーの持ち主だ。そのホームラン数も過去の記録を見渡せば、上には田淵幸一(22本)、高橋由伸(23本)の二人のみ。言わずもがなプロ野球界で堂々たる実績を残した名プレーヤーの聖域に近づいているだけに、おのずと次なるステージでの活躍にも期待が集まるばかりだ(成績はすべて10月25日現在)。

◎プロ志望届を提出した思い
「実力があったわけではないし、這い上がるしかなかった」

いまや大学球界では名を轟かせている岩見。しかし、決して順調に階段を上がってきたわけではない。甲子園経験者がひしめく六大学にあって出場を果たせず、慶大入学も1年間の浪人生活を経た。それでも一歩ずつ少しずつゆっくりと歩を進めた。
「高校3年生くらいから、はっきりとした目標としてプロを目指そうと思いました。慶大を選ぶにあたって、まず考えたのが『関東でプレーした方が夢に近づける』ということ。周囲を見てもうまい選手が多いでしょうし、そのなかでレベルアップしたいと思ったんです。自分の場合はAO入試なら可能性があったのでチャレンジして、一浪しましたが入学できた。ただ、入部してみると野球のレベルは相当高いものでしたね・・・。最初は野球をやらせてもらえなくて、正直、自分の実力では全然ダメだなと思いました。ゲームに出ても、バットに当たるより、三振する打席の方が多かった。そこからグリップの位置を下げたり、練習のなかで大久保(秀昭)監督とも微調整をして少しずつ結果が伴うようになりました」

努力が花開き始めたのは2年秋だ。法大1回戦で代打出場して一発を放つと、同シーズンで2本塁打、3年生の2シーズンでは計7ホーマー。そして、大学生活の集大成の4年生になると一気に量産体制へと入る。春に5本塁打、極めつけは今秋にここまで7本のアーチをスタンドへとたたき込んで歴代通算単独3位、年間最多本塁打記録を更新してみせた。
「2年夏からボールがバットに当たる確率が高くなってきました。そこからステップアップしては壁に当たり、また練習をして・・・。日々試行錯誤しながら乗り越えていく感じでしたが、チームの練習環境が自分に合っていたのは大きかったです。それは“個々に考えて練習をする”という点。正直、他大学よりも全体練習は少ないんじゃないでしょうか。サボろうと思えばできるなかで、選手の自主性に任されている。そんな中で自分なりに、課題を持ちながら練習してきたつもり。とにかく、実力があったわけではなかったので、這い上がるしかなかったんです。また、大久保監督には技術面だけではなくて私生活からしっかりと過ごすこと、人間として成長するために必要なことをたくさん教わった。すごく大きな財産になりました」

◎4年間挑み続けた神宮の舞台とは
「すべての本塁打が大事なもの。チームが勝つことだけを考えた」

10月26日にはドラフト、さらに同週末には大一番の早慶戦を控えている。しかし、岩見は「ドラフトは個人のこと。まずはチームが勝つこと。そのために自分は何ができるかが大事」と、いつもと変わらず目の前の一戦に懸ける覚悟だ。
「中学時代の恩師に“夢の続き”という言葉をもらいました。自分なりには『まだまだ終わりじゃない、常に目標に向かって行け』ということだと解釈しています。プロ入りできるかはまだ分かりませんが、指名されたときが新たなスタート。また、目指すべきところに向かって進んでいきたいです。その前に、今月末の試合で勝つことが最優先。早慶戦ですし、優勝も懸かっている。慶應の選手として最後まで全力でプレーしたいと思います」

岩見は至って謙虚かつ冷静に自身の思いを語るが、周囲のリーグ本塁打記録更新に対する期待は否が応でも高まる。そんななかで、稀代のスラッガーがその先に見据えるものとは-。
「ホームランが打てるというのは自分の特徴の一つだと思います。メジャーで活躍したアレックス・ロドリゲス(元ヤンキースなど)選手みたいに、滞空時間の長いきれいなアーチを打ちたいという思いは昔からありました。まだまだ遠い存在ですけどね(笑)。よく、記憶に残る本塁打を聞かれますが、特にはなくてすべてのホームランが大事。また、チームが勝つために重要だったと思います。さすがに今秋みたいに安打の大半が本塁打(10安打中7本塁打)だと違和感はありますけどね・・・。4年間のリーグ戦では、試合に至るまでに一つひとつ壁をクリアしてきた。これからの野球人生でも、先ほども言いましたように自分の目標に向かって努力、成長していきたいですね」

■プロフィール
岩見雅紀(いわみ・まさき)1994年7月10日生まれ。右投右打。187㎝107㎏。比叡山(滋賀)。リーグ戦通算59試合出場172打数50安打21本塁打53打点、打率.291。比叡山高校から1年間の浪人生活を経て慶大入学。2年春からリーグ戦出場を果たすと、3年春から本塁打を量産。今秋のリーグ戦では歴代単独3位となる通算21号本塁打を放った。侍ジャパン大学代表にも選ばれるなど、プロ注目の大学球界随一のスラッガーだ。