(29日、第107回全国高校野球選手権大会西東京大会決勝、日大三8―4東海大菅生) 能登半島地震に遭った家族や友人を思っ…
(29日、第107回全国高校野球選手権大会西東京大会決勝、日大三8―4東海大菅生)
能登半島地震に遭った家族や友人を思っていた。
1点を追う五回表、東海大菅生の先頭打者、小上防登生(3年)は一塁側スタンドを振り向いた。かつて故郷で一緒に野球をした仲間たちが、バットを振るジェスチャーをしながら名前を叫んでいる。
「何としても、どんな形でも出塁しよう。きっと後ろが返してくれる」
高めに抜けた変化球を強くたたくと、打球は右方向の二塁打に。「ここからいくぞ!」とベンチに向けて両手を振り上げた。小上防は敵失で同点のホームを踏み、後続の勝ち越し打を呼び込んだ。
プロ野球選手を目指し、石川県から東京の強豪校に入学した。1年生の冬、輪島市の祖母のもとへ帰省していたところ、震度7の揺れに見舞われた。家族は全員無事だったが、思い出の詰まった祖母宅が全壊。2日間を車中で過ごした。
手伝えることは少なかった。東京に戻り、野球の練習に励んだ。プロになるため、活躍して注目を浴びたい――。そんな焦りから、無理に長打を狙って凡退することが続いた。若林弘泰監督は「わがままな打撃をするから、いっそのこと自由に打たせてみよう」と、小上防を1番打者にまわした。
高校最後の今大会、小上防の心境にも変化があった。仮設住宅での生活が続く祖母から「かっこいい姿を見せてね」とメッセージが届いた。自分本位の打撃を改め、打率は5割まで上がった。
この日は、七回にも先頭で二塁打を放った。「誰かのためを思うと、不思議と結果がついてきた。甲子園には行けなかったけど、プロになってもっとかっこいい姿を見せたい」
スタンドにはうれしそうな祖母の姿も見えた。=神宮(上保晃平)