オリンピックでのメダル獲得歴を持つマグヌッセン。彼のエンハンスト・ゲームズ参戦に波紋は広まっている。(C)Getty I…
オリンピックでのメダル獲得歴を持つマグヌッセン。彼のエンハンスト・ゲームズ参戦に波紋は広まっている。(C)Getty Images
前代未聞のスポーツイベント開催の意義が問われ続けている。
その大半が批判に溢れた議論百出の事態となっているのは、来年5月21日から24日にかけて、米ネバダ州ラスベガスのホテル「リゾーツ・ワールド」で第1回大会が行われる予定となっている「エンハンスト・ゲームズ」だ。
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オーストラリアの起業家アロン・デスーザ氏が創始者となった同大会が「危険な道化芝居」と批判されるのは、その異例の枠組にある。「Enhanced(強化された、改良された)」という冠の通り、ステロイドやヒト成長ホルモンなど一般的な国際大会で禁止されている薬物の使用が容認。「人間の新たなカテゴリーを創造する」という目標を掲げ、陸上(100メートル、女子100メートルハードルと男子110メートルハードル)、水泳(50メートルと100メートルの自由形およびバタフライ)、重量挙げ(スナッチおよびクリーン&ジャーク)の3競技で、世界新記録の更新を図ろうとしている。
競技前から医師が禁止薬物の種類や摂取量を徹底管理するという前提条件はある。とはいえ、一般的に流通していない薬を含めて身体に取り込むリスクは計り知れない。すでにオーストラリア競泳界のレジェンドでもあるジェームズ・マグヌッセンは参加に向け、調整を進めているが、彼に対しても警鐘を鳴らす声は尽きない。
「医療専門家がいても防げないリスクがある」
そう異を唱えるのは、オーストラリアのナオミ・スピアーズ博士は、母国紙『The Sydney Morning Herald』のインタビューで、マグヌッセンが使用したとされる筋肉量と骨密度を高めるテストステロンについて「心臓疾患、心臓発作、脳卒中のリスクがある」と断言。そして同選手が「処方箋の通りだ」として使用したとされる薬物の中には、一般的ではないものが含まれている危険性を唱えた。
「本人が使用したと明言しているBPC-157、CJC-1295、イパモレリンなどオーストラリアでは医薬品として使われていない薬もあり、健康への影響に関する確固たる根拠はありません。そういった医薬品の大半は、いわゆる闇市場で流通する製品であり、実際に使用している人は、自分の購入品にどのような汚染物質やその他の物質が含まれているかを知る由もないはずです」
無論、大会関係者は安全性について「選手は決してモルモットではない。医学的プロファイリングは他に類を見ないほど厳格だ」と主張する。そしてドナルド・トランプ米大統領の長男であるジュニア氏らが支援を表明し、資金面の課題もクリアしていることを絶えず訴えている。
それでも長期的な健康不良の可能性を説くピアース博士は、こうも断じている。
「最大の懸念は、長期的な安全性について全く研究されていないことです。彼らが使用を明言している製品の多くは、誰かの台所や裏庭、ガレージで作られているものです。薬局で購入する医薬品のように、その品質が保証されているわけではないのです」
大きな反発を招き、国際問題にも発展している同大会は開催に至るのか。仮に始まったとしても、人道的な観点などから出場者や大会関係者への逆風は尽きなそうな情勢だ。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
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