今季のWEリーグ(日本初の女子プロサッカーリーグ)が終了した。最終節までもつれた優勝争いを制したのは、日テレ・東京ベレーザだった。かつての「絶対女王」は、いかにしてWEリーグ初優勝を成し遂げたのか。その舞台裏をサッカージャーナリスト後藤健…
今季のWEリーグ(日本初の女子プロサッカーリーグ)が終了した。最終節までもつれた優勝争いを制したのは、日テレ・東京ベレーザだった。かつての「絶対女王」は、いかにしてWEリーグ初優勝を成し遂げたのか。その舞台裏をサッカージャーナリスト後藤健生が明かす!
■優勝決定は「最終節」に
2024―25WEリーグで、日テレ・東京ヴェルディベレーザが初優勝を決めた。
読売サッカークラブ(現東京ヴェルディ)の女子部門として発足したベレーザ。1990年に日本女子サッカーリーグで初めて優勝して以来、常に日本の女子サッカー界を引っ張る存在であり続け、WEリーグ発足前は、トップリーグでの優勝回数が17回を数える名門である。
そんなベレーザだが、2021年にWEリーグが発足してからは3シーズンともINAC神戸レオネッサ、三菱重工浦和レッズレディースの後塵を拝して3位にとどまっていた(2022年度皇后杯では優勝)。その、かつての「絶対女王」がタイトルを奪還したのだ。
5月17日の最終節を前にベレーザは優勝に王手をかけていた。2位のI神戸と勝点は勝点48で並んでいたものの、得失点差は+31で、+27のI神戸を上回っており、I神戸が大量得点で勝利しない限り、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースとのホームゲームで勝利すれば、自動的に優勝が決まるはずだった。
なお、3位の浦和Lにも数字的には逆転優勝の可能性が残っていたが、それはベレーザとI神戸がともに敗れた場合だったので、事実上、上位2チームに絞られていた。
■勝敗を分けた「ポスト」
だが、サッカーという、なかなか得点が生まれないスポーツでは、「勝てばいい」という試合が難しくなることが往々にしてある。
激しい雨の中で始まったこの試合。ベレーザの選手たちは、キックオフ直後からいつも以上にアグレッシブに攻撃を仕掛け、開始20秒で北村菜々美からトップの土方麻椰にスルーパスが通ってCKを獲得するなど、いくつかのチャンスを作った。とくに右サイドで、ウィングバックの山本柚月やインサイドハーフの松永未夢が良い形で攻撃を仕掛けていたのが目についた。
だが、ベレーザは時間の経過とともに5バック気味でスペースを埋める千葉Lの守備を攻めあぐねることになる。そして、千葉Lのカウンター攻撃で複数回、危ない場面を作られ、さらに23分には千葉Lの大澤春花のFKがベレーザ・ゴールのポストを直撃するなど、ベレーザにとっては嫌なムードが漂ってきた。
だが、32分に右サイドの山本が入れたクロスが伸びすぎて、このボールが千葉LのGKの手をかすめてファーサイドのポスト内側に当たって決まるラッキーなゴールが生まれた。
こうなれば、チーム力で上回るベレーザに死角はなくなる。
40分には3バックの一角、松田紫野がトップの土方に鋭いパスを付けて、そのまま自ら攻め上がってリターンを受け、ドリブルで持ち込んでからDFとは思えないようなテクニカルなシュートを決めてリードを広げる。そして、後半にも再び右サイドの山本が決めて、3対0で試合は終了。
選手たちはピッチ上でI神戸対ノジマステラ神奈川相模原のゲームの終了を待つ。そして、I神戸の得点が3点にとどまったため、ベレーザの初優勝が確定した。
■こだわり続けた「伝統」
ベレーザが、このところ優勝から遠ざかっていた原因としては、大きく2つが考えられる。
ひとつは、読売サッカークラブ時代からの伝統として、テクニックとパスワークにこだわり続けたことだ。
テクニックのレベルを上げて、パス・サッカーを志向することはもちろん誤りではない。いや、日本のサッカーにとって、それは大きな武器なので、そのスタンダードをさらに上げていってほしいものだ。
だが、現代サッカーは「カウンタープレスの時代」。前線からのプレッシングや運動量の重要性が増しており、それは女子サッカーでも同じだ。
I神戸は、アグレッシブな守備とウィングバックを使ったダイナミックな攻撃が持ち味だし、パワーのあるスペイン人選手も在籍している。
また、WEリーグで2連覇していた浦和Lは、パワーとテクニック、スピードを併せ持った非常にバランスの良いチーム。
これに対して、ベレーザはパスワークによる中央突破という、読売サッカークラブ以来の伝統にこだわり過ぎていた。パワー系の選手は軽視され、パスによってキレイな形を作ることにこだわっていた。
そうした意識を変えたのが、昨シーズンからベレーザを率いた松田岳夫監督だった。