時にスタメン、時に代打、もしくは守備固めとあらゆる役割を求められる京田。マルチに仕事をこなす31歳には特別な思いがあった。(C)産経新聞社陰日向で動く、貴重なバイプレーヤー 悲願のペナントフラッグ奪取に向けてスタートしたDeNAの2025年…
時にスタメン、時に代打、もしくは守備固めとあらゆる役割を求められる京田。マルチに仕事をこなす31歳には特別な思いがあった。(C)産経新聞社
陰日向で動く、貴重なバイプレーヤー
悲願のペナントフラッグ奪取に向けてスタートしたDeNAの2025年。その開幕戦には、ファーストに昨年の首位打者であるタイラー・オースティン、セカンドにキャプテンの牧秀悟、サードには天才ヒットメーカーの宮﨑敏郎、そしてショートには覚醒必至とされた森敬斗と充実の内野陣が揃った。
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しかし、蓋を開けてみるとオースティンは下半身のコンディション不良で離脱(すでに戦線復帰)、宮﨑と森は不調でファーム行きと、一時、牧以外が不在となる予期せぬ事態に陥った。それでも5月14日時点で勝率5割に踏みとどまっているという事実は、まずまずの結果と言っても言い過ぎではないはずだ。
アクシデントの中で踏ん張るチームの裏には、陰日向で動く、京田陽太の献身的な姿があった。
31歳のマルチロールは、ショートやサードでの先発出場のほか、代打に代走、そして守備固めと様々な役割でチームの穴を補填する。そんな自身の現在の立ち位置に京田は「ドラゴンズのときは、ずっと出させてもらっていた側でしたからね」と、中日時代にレギュラーを張った5年間をふまえて素直な心境を明かす。
常に出場機会が与えられる訳では無い。それでも「このチームの僕より年上の人たちがすごいんです。弱音も吐かず、文句1つ言わないで早く来て練習して準備して。僕なんかが葛藤とか言っている場合じゃないですよ。このチームのすごくいいところですよ」と言葉に力を込める。
昨年のポストシーズンでは確かにベテラン陣が輝いた。右尺骨骨折で緊急離脱となった正捕手の山本祐大の穴を埋めて余りある活躍を見せた戸柱恭孝を筆頭に、柴田竜拓、神里和毅、筒香嘉智らは日本シリーズ制覇に貢献した。
そんなベテランたちの輝きが刺激となった。「ぼくもそこに付いていきながらやっています。困ったときにベテランは使われるので」と連日の早出でも、求められたニーズに応えるべく汗を流す京田は「いまはいい経験をさせてもらっていますよ」と充実感を漂わせる。
昨年、ソフトバンクに2勝を先行されて劣勢にあった日本シリーズでも、チーム内で立ち上がったのは「練習の虫」となったベテラン勢だった。京田は中日時代に想いを馳せながら、こう振り返る。
「チームの色もありますし、無理やりやらされていたのかなという部分もありますけど、今となっては、『あのときの練習はこういう意味だったのか』と気づくこともありますね」
無論、野球人としても得るものはある。
「スタメンでずっと出ているときは、自分のプレーが精一杯で客観的に野球を見られませんからね。ベンチに居ることによってより野球を勉強することができています」
そう視野の広がりを明かす京田は、「勝っている場面、僅差の場面で途中から出ていくわけじゃないですか。守備固めで柴田さんや神里さんとか、本当にすごいと思います」と吐露。ミスの許されないケースで、黙々と仕事をこなす難しさを経験し、バックアップの大切さを説いた。
ショート一筋で生きてきた男の変化
ベイスターズに移籍したからこその気づきである。22年11月に電撃的なトレードでやってきた名手は、「そういう人たちがいるからこそ、試合は成り立つんです。スタメンの人だけでは野球はできない。そういうところをリスペクトできないと、チームは強くならない」と強調する。
「早く来てやっているのを見てもらうためにやるわけではなく、練習すれば打てるわけでもない。ですけど、若い子たちには見習って欲しいところもありますね。ピッチャーの方々も見ていると思いますし、彼らも家族がいて人生を賭けてやっていますから、信頼関係にも影響すると思うんですよ」
そう若手の行動に警鐘を鳴らす京田は、「部活動の延長みたいな若い子はいます。そういうのも変えていかないと」とプロとしての厳しさと、練習の重要性を説く。
若手にも刺激を与える献身的な京田の姿には、首脳陣も目を光らせる。
アレックス・ラミレス監督による前政権時に、“ダッグアウト・キャプテン”として選手でありながらも、当時のキャプテンだった筒香嘉智をバックアップし、チームをまとめた田中浩康野手コーチは「京田が入ってきたときはそういう役割ではなかったと思いますが、今年はそういう意識が強いと感じますね。キャンプからコミニュケーション取っている中で、そういう雰囲気があります」とし、自身との共通点を口にする。
「ショート一筋で生きてきたのに、一昨年昨年とファーストやってサードやって代打や代走もやって。ぼくもそういう経験をしてきたので、前向きな気持ちでやってみようって。もちろん彼の目標はやっぱりショートストップであると思います。色んなところを守った経験も必ずショートの守備にも活きてくるはずですから。京田の頑張りで、勝ち取る場所です」
もちろん、「最初から試合に出たいです」と語る京田本人の理想もショートでのスタメン出場ではある。現在は林琢真や石上泰輝ら若手が起用される競争の激しいポジションだが、プロ野球選手として当然の言葉とも言えよう。
ベイスターズの色にすっかり馴染んだ3年目。日の当たるグラウンドでのプレーはもちろん、ファンの目に留まらない場所でも、勝利のためにと奔走する31歳は、勇ましく映る。
[取材・文/萩原孝弘]
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