元4階級制覇王者の井岡一翔(志成)とWBAスーパーフライ級王者フェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)による仕切り直しの世界タイトルマッチが5月11日、東京・大田区総合体育館にセットされた。井岡は26日、都内で記者会見に臨み、マルティネ…
元4階級制覇王者の井岡一翔(志成)とWBAスーパーフライ級王者フェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)による仕切り直しの世界タイトルマッチが5月11日、東京・大田区総合体育館にセットされた。井岡は26日、都内で記者会見に臨み、マルティネスもオンラインで参加した。
「マルティネス選手との再戦が決まると信じてトレーニングをしてきた」
記者会見の冒頭、井岡が口にした短いセリフにこの試合にかける思いがこもっていた。昨年7月、WBA王者としてIBF王者マルティネスとの統一戦に挑み、3-0判定負けで王座を失った。ダイレクトリマッチが大みそかに組まれたものの、マルティネスがインフルエンザに感染し、試合中止が決定したのは何と試合の前日だった。
あれからの4カ月、井岡が苦しい日々を送らなかったと言えば嘘になる。陣営はすぐに新たなスケジュールを組もうとしたが、マルティネスの体調や、陣営がどう判断するかはなかなか見えてこなかった。すぐに新しい日程が決まるのか、あるいはマルティネスとの再戦自体がなくなるのか……。モヤモヤとはっきりしない状態はさずがにストレスだったに違いない。
「この試合がはたしていつ実現するのか、それともしないのか。最初はまったく分からなくて、もし2月に決まったら思った以上に急ピッチで仕上げなくてはいけないと思いました。それが2月はなさそうだな、じゃあ3月か、いや3月もなさそうだ……。そんな感じだったので、気持ちを緩めるわけにもいかず、実戦練習以外のトレーニングはずっと継続してやっていました」
井岡が世界タイトルマッチの中止を経験するのは2度目である。2021年大みそか、ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)とのスーパーフライ級王座統一戦が組まれながら、新型コロナウイルス拡大の影響でアンカハスの入国が不可能となった。このときも「心に穴が開いたような気持ちになった」が、アンカハス戦の中止決定は試合のおよそ1カ月前であり、代役チャレンジャーを福永亮次が引き受け、防衛戦そのものは流れなかった。今回のような急にして不透明な事態は初めてだったのである。
■大みそかに試合中止も“解釈は無数” 今回は“より動ける”という感覚がある
それでもなお、井岡は井岡だった。不安を抱えながらも気持ちをブラさず、自分が今できることに専念した。簡単にできることではないだろう。そのことを問うと、36歳のベテランは自らの哲学を明かすようにこう説明した。
「真実は一つでも解釈は無数にあると思うんです。大みそかの試合が中止になったという真実は一つ。だけど自分の解釈、考え方次第で何とでもなる。だれもこんな経験できないわけですから、そういう意味ではすごく感謝なんです」
井岡の「解釈」だと延期は間違いなくプラスに働いた。近年の井岡は年2試合のペースで試合をしてきて、自ずとトレーニング、試合、休息というサイクルは一定してくる。それが今回、トレーニングの期間が長くなり、新たな発見があったという。
「終わったあとにしっかり休むと、またイチからのトレーニングになります。結果的に今回はいつもより長くトレーニングすることになったので、そこに“伸び”を感じているんです。実際はオフに家族と過ごすとか心の休息も必要で、そこのバランスが難しいんですけど、今回は“より動ける”という感覚がありますね」
体の調子がいいのは何よりだが、相手は一度負けているマルティネスだ。前回はマルティネスがパワフルという印象を裏切る試合巧者ぶりを発揮して井岡からベルトを奪った。リマッチは古今東西、一度勝っているほうが有利と言われる。それでもなお、井岡は今回のダイレクトリマッチに大きな自信を持っている。
「確かにマルティネス選手は強い。でも、昨年7月以上のものはないと思うんです。あれが彼の最大限、僕はそう思っています」
井岡は自らがはい上がる姿をファンに見せるため、あえてダイレクトリマッチにこだわった。そして難しい対戦交渉を乗り越え、望んでいた絶好の舞台を手に入れた。あとは試合でしっかりリベンジするだけだ。井岡の心はバチッと固まっている。
「やるか、やらないか。人生は二択やなと。自分はやるほう、挑戦するほうを選択して、いろいろな方がサポートをしてくれた。5月11日に結果を出して、シンプルに“やる”を選択したらこういう日が来るということを証明したい」
井岡が勝てば36歳1カ月での王座獲得となり、元3階級制覇王者、長谷川穂積さんの35歳9カ月を上回って世界タイトル獲得の国内最年長記録を更新する。「必ず勝って、1年でも、1試合でも長く続けられるようにしたい」。落ち着いた語り口に確かな自信が感じられた。