選抜高校野球1回戦(21日、阪神甲子園球場)○広島商10―2横浜清陵(神奈川) 内野ゴロの間に先制し、すかさずスクイズで加点する。広島商の初回の攻撃に、手堅く得点を重ねる「らしさ」が詰まっていた。その裏には、ただ伝統をなぞるだけではない、新…
選抜高校野球1回戦(21日、阪神甲子園球場)
○広島商10―2横浜清陵(神奈川)
内野ゴロの間に先制し、すかさずスクイズで加点する。広島商の初回の攻撃に、手堅く得点を重ねる「らしさ」が詰まっていた。その裏には、ただ伝統をなぞるだけではない、新たな取り組みがあった。
1点を先行した直後の一回1死一、三塁。5番・藤田涼平は、1ボールからの2球目の落ちる変化球にバットを巧みに合わせ、打球の勢いを殺して一塁線に転がした。「初回の得点は大事なので手堅く行った」と荒谷忠勝監督。藤田は2点目となるスクイズを決め「素直にうれしい。日ごろからやっていることなので、落ち着いてできました」と、ほっとした表情を見せた。
広島商はその後も相手の四死球や失策につけ込み、終わってみれば11安打10得点の快勝だった。
小技や機動力を駆使して得点し、試合の主導権を握る――。春夏合わせて7回の優勝を誇る名門・広島商の世間に浸透するイメージだ。ただ、2004年夏に出場してからは19年夏まで甲子園の舞台から遠ざかるなど、近年は思うような成績を残せない時期もあった。
荒谷監督は18年夏に就任し、各選手に練習日誌をつけてもらう取り組みを始めた。「今の時代はただの『精神論』ではだめ。日ごろの成果を目に見える形で残すことで、説得力が生まれる」。荒谷監督は狙いを語る。
各選手は日誌に、打撃練習や練習試合でのデータを毎日記していく。バントで狙ったところに何球転がせたか、2ストライク後にファウルで何球粘れたかなど、項目はさまざまだ。藤田も「数字で残すことで、自分の成長具合が一目で分かる」と効果を実感する。
なぜ、細かい部分にこだわるのか。藤田は「今はピッチャーのレベルも上がっているし、うちには強豪私立みたいなポテンシャルのある選手はいない。1点の重みはすごくある」と話す。主将の西村銀士も「長打を打ちたいという欲を出したら負け。皆が、自分ができることを徹底している」と強調する。
2回戦で顔を合わせる東洋大姫路(兵庫)は長打力があり、フィジカルも強い。荒谷監督は「そこは知恵を絞ってやるのが広商だと思いますので」と、淡々と次戦を見据える。
伝統的なスタイルを、今の時代に合ったやり方で受け継ぎ、発展させる。そこに、広島商の強さがある。【深野麟之介】