「ジャパネット杯 春の高校バレー」第77回全日本バレーボール高校選手権は12日の決勝で、男子は駿台学園、女子は共栄学園が優勝。東京勢のアベックVで閉幕した。多くのドラマがあった中で、うれしい驚きは共栄学園のエース、秋本美空(3年)の予想をは…

「ジャパネット杯 春の高校バレー」第77回全日本バレーボール高校選手権は12日の決勝で、男子は駿台学園、女子は共栄学園が優勝。東京勢のアベックVで閉幕した。多くのドラマがあった中で、うれしい驚きは共栄学園のエース、秋本美空(3年)の予想をはるかに超える活躍だった。

秋本ら主力の3年生は常に東京都予選で敗れて高校総体に出場できない悔しさを味わってきた。春高では、1年時は準々決勝、2年時は初戦で敗退しており、今回は3年間で初の全国大会4強進出だった。それが準決勝では前回優勝の就実(岡山)を圧倒すると、東京で常に壁としてはね返されてきた下北沢成徳に、決勝という最も重要な舞台で完勝。秋本は2試合合計77得点と〝無双〟ぶりを発揮する、まるでマンガのストーリーのような王座獲得劇だった。

秋本は1年時に日本代表に登録され、年代別代表で主力を張るなど、常に注目の存在だった。ただチームの成績がパッとしないこともあり、いつも一歩引いた印象があった。自身も「世代ナンバーワンエースは自分じゃないと思っていた」と語る。だが共栄学園中から6年間を共に過ごしてきた仲間との最後の試合ということもあって、獅子奮迅の大活躍。改めて、ここまですごい選手だったのかと思わされた。

その片鱗(へんりん)がうかがえたのは昨年11月の春高東京都予選だった。準決勝で成徳に敗れた後、最後の全国切符をかけて文京学院大女と対戦した3位決定戦。共栄は第1セットを落とし、第2セットも20-23と崖っぷちにいた。

だが、ここから秋本の強打で3連続得点。23-24と先にマッチポイントを握られたが、秋本のバックアタックなどで34-32と大逆転した。あと1失点で本大会出場を逃す剣が峰から生き残ると、最終第3セットも秋本の強打やサービスエースで奪取。この時に見せた、日本一への固い意志や仲間への信頼が、本大会ではより強固に示された。

2014年12月6日、東京体育館。16年リオデジャネイロ五輪の柔道日本代表選考の一環だった大会・グランドスラム東京が行われ、男子73キロ級決勝では秋本啓之が、のちに五輪で2連覇する大野将平を下した。観客席で応援していた秋本の妻で、12年ロンドン五輪バレーボール女子銅メダリストの愛(旧姓・大友)さんは涙して喜んだ。

その試合の前、私は現役時代から知り合いだった愛さんと客席で世間話をしていた。生まれたばかりの長男を胸に抱く愛さんの近くには、元気に走り回る小学生の女の子がいた。当時8歳の秋本美空だ。後日、当人にその話をしても全く覚えていなかったが、あの小さな子がここまで成長したのかと思うと感慨深い。

共栄学園・中村文哉監督は秋本の高校進学前後に、日本代表の映像を見せて「あそこにお前は入るんだぞ」と言って聞かせたという。「その時はキョトンとしていましたけどね」と苦笑する中村監督。そんな少女も、今では「代表に入るのが目標じゃなく、代表で活躍するのが目標」と言い切るまでに成長した。

16日にはSVリーグ・姫路への入団が発表された。秋本は「自分が目指したい目標への援助を一番してもらえるチーム」と選択の理由を話していた。男子日本代表の高橋藍(サントリー)のように、攻撃も守備もできる選手が目標という秋本。就任2季目でチームを皇后杯全日本選手権優勝に導いたアビタル・セリンジャー監督が、どんな方針で、将来の日本代表を背負って立つ逸材を育てるのか。期待して見守りたい。(只木信昭)