バレーボールの中学生世代は、12月25日から大阪で開催される「JOC ジュニアオリンピックカップ全国都道府県対抗中学大会」が2024年最後の大型公式戦となる。筆者がこの1年間、中学の現場を取材してきたなかで最も印象に残ったチームの姿をここ…
バレーボールの中学生世代は、12月25日から大阪で開催される「JOC ジュニアオリンピックカップ全国都道府県対抗中学大会」が2024年最後の大型公式戦となる。筆者がこの1年間、中学の現場を取材してきたなかで最も印象に残ったチームの姿をここに刻みたい。〔前編〕
学校としては通算2度目の全中出場を果たした大衡中
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福井全中に出場した大衡中男子バレーボール部
あらすじは、こうだ。
【小学生からの競技経験者は2人だけ。とある中学校の男子バレーボール部は部員数が同学年の6人でスタートし、ふだんの練習では実戦形式のメニューは難しかった。そこに新人大会では、サッカーから助っ人が加わる。やがて3年生7人となったチームは県大会、ブロック大会と勝ち上がり、全国の舞台に立つ。だが、そこでは大会初戦でセッターがケガに見舞われる。リベロチェンジさえできない状況に直面しながらも、彼らは全国大会を駆け抜けた――】
まるで漫画のような…、とは使い古された表現だが、これは実際にあったエピソード。主人公は宮城県の大衡中男子バレーボール部である。
今夏、福井県で開催された第54回全日本中学校選手権大会(以下、全中)に彼らの名前があった。大会プログラムに掲載されている名簿の人数は、参加チーム中最少の7人。それも全員が3年生だ。監督の千葉照彦先生は説明する。
「全校生徒は160名ほどです。毎年コンスタントに入部してくれるのですが、ここ2年は部員が入ってこなくて…。今の3年生が引退したら、いったん休部になります。春に新しく部員がくれば、活動が再開できるようになるかと」
大衡中に赴任して2年目の千葉監督(中央)とともに
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週末の練習試合が唯一の実戦形式のプレー機会だった
福井全中に臨んだ3年生たちはいずれも、宮城県仙台市から北に位置する黒川郡大衡村で生まれ育ち、お互いに小学生の頃から知ったものどうし。ただ、競技経験があったのはキャプテンの髙橋桜太朗とアタッカーの髙橋凌玖の2人のみ。それ以外の面々は中学に進んでからバレーボールを始めた。
2年生の夏から自分たちの代をいざスタートさせたわけだが、その時点で部員数は6人だけ。平日の練習は2時間ほどで、それ以上に、試合形式のメニューが不可能という物理的な制限に見舞われた。「平日はもう基礎的な練習しかできなかったものですから。実戦を通したほうが上達するなと感じたので、毎週のように練習試合を組ませてもらい、そこで技術と体力をつけました」と千葉監督。髙橋キャプテンも「実際に6人で戦う機会が練習試合しかなかったので、週末をとても大事にしていました。それに日頃の練習でも3対3など、少人数でもゲーム勘を磨くことを意識していました」と語る。
できることは限られるとはいえ、大切にしたのは部員間でのコミュニケーションだ。「いろいろとこちらが指示してやらせるよりも、練習の組み立てなども部員たちが主体性を持って考えて、お互いに声をかけあいながら進めたほうが、この集団は伸びると感じたものですから」と千葉監督。もっとも、そこには千葉監督自身が競技の未経験者で(バドミントンに励んでいたそう)、大衡中に赴任した昨年からバレーボールと触れ合うようになったという事情も少なからず関係していた。
①髙橋キャプテンは宮城のクラブチーム「INSISTCLEAN」でもバレーボールに励んでいた
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新人戦に出られない!? 声をかけた相手は美術部員のゴールキーパー
髙橋キャプテンやセッターの和野翔は、部活動と並行して地元のクラブチーム「INSISTCLEAN」で活動するなど、個人の裁量で競技に取り組むことはできた。だが、クラブチームでの大会の兼ね合いで、髙橋凌玖が11月に行われる県の新人大会に参加できなくなった。このままでは1チームを編成することもままならない。そこで部員たちが声をかけたのが、当時は美術部に所属していた鈴木輝だった。
「何かしら役に立てたらな、というぐらいの気持ちでした。バレーボールはいっさいやったことがなくて、ルールも少しだけ。試合ではボールを拾う場面もありましたが、ほんとうにコートに入っただけでした」
そう明かす鈴木自身は学校以外ではクラブチームでサッカーに励んでおり、そちらではゴールキーパーを務めている。「反射神経の面はバレーボールに生かされたかもしれません」と言い、新人大会に出場したのちに美術部からバレーボール部へと籍を移した。
これには髙橋キャプテンも「いちばん大きなポイントでした。レシーブが苦手なメンバーが弱点になっていたので、誰かほしいなと思っていたところに彼(鈴木)が入ってくれたんです。みんなも彼がレベルアップしていく姿を見て、『これ、いけるんじゃない?』と思いましたから」とほほえむ。サッカーではゴールを守るキーパー、バレーボールではフロアを守るリベロ。本格的にそのポジションについたのは、夏の選手権大会に臨むころだったというが、“守護神”鈴木の誕生はチームにとって追い風となった。
≪後編に続く≫
リベロを務めた⑦鈴木はその役目を果たした
(文・写真/坂口功将)
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【ギャラリー】漫画のような現実の物語。全国大会を戦った大衡中男子バレーボール部
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