現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」 久保建英は15日のラス・パルマス戦で公式戦3試合連続の先発出場を果たしたが、右サイドで輝くことはできず、後半の早い時間帯に交代を余儀なくされた。 今季のラ・リーガで久保はまだアシストを記録していな…

現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 久保建英は15日のラス・パルマス戦で公式戦3試合連続の先発出場を果たしたが、右サイドで輝くことはできず、後半の早い時間帯に交代を余儀なくされた。

 今季のラ・リーガで久保はまだアシストを記録していない。今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、その原因を分析してもらった。

【生粋のチャンスメーカー】

 違いを生み出す力や突破力があまりないラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)にとって、クラック(名手)である久保建英は必要不可欠な存在だ。シーズン開幕当初、チームとともに不調だった時であっても、ラ・レアルのスター選手であることに疑いの余地はなかった。さらに言うと、中途半端にしか奮起できなかった時でさえも試合の中心だった。


久保建英はラス・パルマス戦で途中交代。今季ラ・リーガではまだアシストを記録していない

 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 久保は、ここ数週間でラ・レアルが復活できた理由のひとつでもある。ドノスティア(サン・セバスティアンのバスク語)に来てから通算20ゴールを挙げているが、「久保がゴールを決めると勝利する」という興味深いデータがあるほどだ(※1試合のみ引き分け)。

 久保はラ・レアル加入以降ずっと"数字を向上させなければいけない"と訴え続けている。「もっとゴールを決めたい」「そろそろ得点しなければいけない」「いい得点を決める必要がある」と試合後のインタビューで常々口にしていた。イマノル・アルグアシル監督に公の場でより多くの数字を残すように求められているように、久保も自身により厳しくその要求を課している。

 しかし、久保はより多くの得点を決める役割以上に、生粋のチャンスメーカーだ。これまで彼が作り出してきたプレーがゴールに結びつかないことはたくさんあったが、その素質を存分に示してきた。

 久保がチームメイトのために生み出しているアドバンテージは、ゴールと同等の価値を持つべきだが、チームの決定力不足によりアシストという結果につながっていない。

 ヨーロッパリーグのアヤックス戦で途中出場した直後、久保のパスからゴールを決めたアンデル・バレネチェアは、「あれはファーストタッチだった。僕がピッチに入った時、タケが集中力を高め、いろいろなプレーを試みていたのはわかっていた。イマノルに最初に言われたのは、タケがボールに触れたらペナルティーエリアに足を踏み入れろということだった。実際、あのようにボールが僕の足元に来て得点できたんだ」と振り返っていた。

 久保のアシストの才能については語るべき事実がある。ディナモ・キーウ戦のシェラルド・ベッカーへのアシストで堂安律(フライブルク)を上回り、ヨーロッパリーグ史上最多7アシストを記録したアジア人選手となったのだ。

【久保にアシストがつかない理由】

 久保は今季ここまで公式戦で2アシスト(ヨーロッパリーグのアヤックス戦とディナモ・キーウ戦)し、ラ・レアルの選手としては公式戦通算107試合で16アシストを記録している。

 ラ・リーガにおけるチームのアシストランキングは、セルヒオ・ゴメスがトップの4アシスト。続いてバレネチェアが2アシスト、アマリ・トラオレ、ルカ・スチッチ、ミケル・オヤルサバル、ブライス・メンデス、マルティン・スビメンディが各1アシスト。久保は今季、ラ・リーガではアシストをまだ1度も記録していないが、様々なスポーツのデータを扱う『Sofascore』によると、ラ・リーガでキーパス(味方のシュートにつながるパス)を1試合平均1.3本出している。

 4アシストのセルヒオ・ゴメスは、ドリブラーではなく、その卓越した左足で常にチームメイトを探し、アシスト数を伸ばしている。

 ドリブラーのバレネチェアは久保と同じく利き足と違うサイドでプレーしているが、タイプは異なる。彼はドリブルを仕掛ける際、自分のスペースを探しながらチームメイトのことを考え、クロスやパスを出し、さらには久保の待つ右サイドにボールを送ろうとする傾向がある。さらに逆サイドからのクロスに備えて頻繁にゴールに向かい、これまで頭や両足で得点を挙げてきた。

 久保にアシストがつかない原因は、本人とチームの両方に問題がある。

 久保はボールを必要以上に持ち、ドリブルをやり過ぎ、パスを出すべきタイミングで自らシュートを狙うというミスを犯すことがある。それは彼のスタイルではあるものの、今年はそれによって苦しめられた部分がある。

 セルヒオ・ゴメスの加入によってCKを蹴らなくなったことも、アシストが減る原因につながっている。しかし、ラ・レアルは現在、ラ・リーガでセットプレーからの得点が最も少ないチームであるため、キッカー変更がうまくいっているとは言い難い。

 FW陣の決定力不足も大きく響いている。彼らは決定機を決めきる精度が低く、何度もゴールを逃しているが、そのうちのいくつかは久保のパスからだ。

 ラ・レアルの攻撃スタイルも関係している。これまでイマノルは左サイドにプレーを集中させた後に、素早く右サイドに展開することでフリーの久保が相手DFと有利な形で対峙しゴールシーンを作り出すという、すばらしいプレースタイルを確立していた。その際、久保はアシストをする選手ではなく、優れたフィニッシャーとして考えられていた。

 しかし相手にそれを察知され、ダブルマークを受けるようになったことで、楽にプレーできなくなった。それもあり今はシュートを打つよりも、クロスを上げたり逆サイドに移動する動きが多くなっている。しかしラ・レアルはクロスからの得点がほとんどないため、久保にアシストがついていない。

【2024年をいい形で締めくくれるか】

 ラ・レアルはヨーロッパリーグでディナモ・キーウを圧倒し(3-0)、久保は途中交代で30分以上休むことができた。そこでイマノルはラ・リーガのラス・パルマス戦で再び久保を先発起用できた。この試合はラ・レアルにとって2024年のホーム最終戦だったが、チームは勝てず(0-0)、久保もいいプレーを披露できず、最高の形でサポーターに別れを告げることができなかった。

 ラス・パルマスの敵将は久保を封じ込めるため、左サイドのセルヒオ・ゴメスをフリーにする代償を払い、右サイドに複数の選手を置くゲームプランを用意してきた。これにより久保は厳しいマークに苦しめられ、何度トライしてもうまくいかなかった。

 1年を美しく締めくくるためには、12月21日(現地時間)にビーゴで行なわれる年内最後のセルタ戦で、久保らしさを発揮する必要があるだろう。

(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)