蹴球放浪は、文化を学ぶ旅でもある。国によって違う習慣も興味深いが、南米とアジアが思わぬ形でつながることも。蹴球放浪家・後藤健生の中で、ブラジルと韓国が重なったのは、2018年のW杯ブラジル大会。空港に向かうバスの中での突然の出来事がキッカ…

 蹴球放浪は、文化を学ぶ旅でもある。国によって違う習慣も興味深いが、南米とアジアが思わぬ形でつながることも。蹴球放浪家・後藤健生の中で、ブラジルと韓国が重なったのは、2018年のW杯ブラジル大会。空港に向かうバスの中での突然の出来事がキッカケだった――。

■東京では「50年前」に廃れた

 ただ、そうした風習は社会が近代化し、都市化するとともに、アッという間に廃れてしまいます。

 座っている人が荷物を持ってくれるという習慣は、日本でも昔はあったようです。僕も子どもの頃、祖父と電車に乗っていてそんな経験をしたような記憶がかすかに残っています。ただ、少なくとも東京では50年前までにはそういう習慣は廃れてしまったようです。

 先ほど、韓国でも同じようなことがあったという話をしましたが、今ではそんな習慣もなくなってしまったようです。

 昔の韓国というのは、人間関係が非常に稠密(※ちゅうみつ=ギッシリ詰まっている様)な社会でした。「友達」というと、朝は仕事に行く前に一緒に早起き蹴球をして、会社が終わると毎晩のように夜中まで飲んでいて、家族と一緒の時間よりも長い時間一緒に過ごすことが普通でした。

 今は、すっかり「家族第一」になっているようですが……。

■韓国では「高齢化社会」に突入

 そして、朝鮮王朝時代には熱烈に儒教を信奉していた国だったので、「儒教精神」も色濃く残っていました。

 たとえば、「敬老精神」。

 地下鉄やバスで年長者が乗ってきたら、若者が席を譲るのは当たり前。すでに、敬老精神が薄れていた1980年代の日本から韓国に行くと、そのことを痛感したものです。

 ところが、最近は韓国でも年寄りに席を譲る若者は少なくなったということを耳にしました。

 とにかく、韓国と言うのは社会の変化が速い国です。日本が100年かけて近代化してきた道を、わずか50~60年の間に成し遂げたわけですから……。

 そして、韓国はすでに高齢化社会に突入しています。「1人の女性が一生の間に何人の子どもを産むか」を示す特殊出走率で、韓国は0.778で世界192か国中、第191位(最下位は香港)。184位の日本の1.260を大きく下回ります(世界銀行の統計)。

 しかも、日本と比べて年金制度が整備されたのが遅いため、韓国では高齢者の多くが貧困にあえいでいます。そして、これほど高齢者が増えてしまったのでは、「年寄りを大事にしよう」という意識が薄れてしまうのは当たり前なのかもしれません。

 ですから、韓国では立っている人の荷物を持ってくれるという習慣も、年寄りに席を譲るという習慣も急速に廃れてしまったのです。

■ブラジルでは「高齢者」が優遇

 敬老精神も、ブラジルには生きているようです。

 ブラジルも少子化は進んでいるようですが(特殊出生率は135位の1.626と、ラテンアメリカの中では低いほう)、それでもヨーロッパや東アジア諸国に比べると、若者が多いのは明らかです。

 ですから、ブラジルでは敬老精神は今でも健在です。

 ブラジルの空港では、チェックインの行列や搭乗の順序でも高齢者が優遇されています。65歳以上だと優先レーンでチェックインができますし、エコノミークラスでも優先登場で搭乗することができるのです。

 ワールドカップ期間中は、「ワールドカップのADカード」という最強の武器も首からぶら下げていましたから、とても良い思いをしたものです。

 でも、レシフェのバスでは荷物は持ってくれたけど、席は譲ってくれなかったなぁ……。

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