本来なら、もっと騒がれてもいい記録だ。9月8日、地元ロサンゼルスでのロッキーズ戦で、ドジャースのダルビッシュ有はメ…

 本来なら、もっと騒がれてもいい記録だ。9月8日、地元ロサンゼルスでのロッキーズ戦で、ドジャースのダルビッシュ有はメジャー史上最速で通算1000奪三振を達成した。



ロッキーズ戦の5回途中で降板したダルビッシュ

 初回に1三振、2、3回に2三振ずつを奪って王手をかけると、4回無死一塁の場面でカルロス・ゴンサレスをスライダーで空振り三振に仕留め、偉業を達成。128試合での1000奪三振は、ケリー・ウッドの134試合を抜くメジャー新記録である。三振を奪える豪快なパワーピッチャーが高く評価されるMLBにおいて、この最速レコードは金字塔と言っていい。

 しかし――。試合後、ダルビッシュはこの記念すべき記録の重要さを打ち消した。

「おめでとうございますと何人かに言っていただきましたけど、そういう状態じゃない。もちろん7、8回投げたいし、勝ちたい。1000三振といっても、自分の中でどうでもいいわと思っていました」

 主力投手のひとりとして、現在の状況では素直に喜べないという想いがあったのだろう。この日は、4-1で迎えた5回1死2、3塁から3連続適時二塁打を浴びるなど、結局は4回1/3を5失点で今季12敗目を喫し、歴史的な記録の達成を白星で飾れなかった。

 トレード期限間際にドジャースに電撃移籍して以降、6試合で2勝3敗、防御率5.34、被打率.289、WHIP(被安打+与四球を投球回数で割った数値)1.55と数字は低調だ。8月4日の移籍後初先発こそ7回無失点と快調だったが、以降はジリ貧傾向にある。29年ぶりの世界一を目指すチームの”最後のピース”として迎えられながら、「その役割を果たせていない」という気持ちは強いに違いない。

 現在、ドジャースは予想外の形で失速している。8月25日の時点では91勝36敗と圧倒的な強さを誇り、シーズン116勝ペースで首位をひた走っていた。8月中旬、スポーツ・イラストレイテッド誌が”今季のドジャースは史上最高のチームか”といった見出しを表紙に掲げたほどだった。

 ところが、8月27日にショートのコーリー・シーガーが故障離脱してから勢いをなくし、9月8日まで2013年5月以来となる最悪の8連敗。この日までの14戦で、1勝13敗という信じられないほどの不振に陥った。

「最初の2、3週間は、こんなに何でもうまくいくことがあるんだなと思っていた。それが、この2週間くらいは、逆に何もかもうまくいっていない。(でも、)いろいろなチームを見てきて思いますけど、どん底な状態でのこのチームのアプローチ、みんなの雰囲気、言葉なりを見たときに、やっぱりすごくいいチームだなと思います」

 ダルビッシュはそう語り、低迷時にもチームの士気が下がっていないことを強調した。依然として地区優勝は確実であり、長いシーズンの中のアップダウンを大げさに騒ぎ立てるべきではないという見方もある。ここで一度調子を落としても、約1カ月後のプレーオフでまたペースを上げればいい。

 ただ、シーズン中に1勝13敗というスパンを経験し、その年にワールドシリーズを制したチームは存在しないという不吉なデータもある。一方、一昨日まで13連勝を続けた地区ライバルのダイヤモンドバックスをはじめ、ナショナルズ、カブスといったナ・リーグのライバルチームは上り調子。プレーオフ開始時には、ドジャースは”ダントツの大本命”とは目されてはいないだろう。

 気になるのは、先発陣の調子とダルビッシュの復調具合だ。今季12勝の前田健太ですら、先発ローテーション落ちが危惧されるほど層が厚いドジャースの先発陣は、チーム最大の武器と目されてきた。しかし、ここにきてその質に不安がささやかれ始めている。

 腰痛で9月1日までの5週間を離脱した大エースのクレイトン・カーショウが、9月7日の試合では4回途中までに4失点と打ち込まれた。今季にブレイクしたアレックス・ウッドも、直近2戦で5被本塁打と疲れ気味。ダルビッシュの復活が待たれるところだが、心強いのは、ロッキーズ戦後の表情に迷いが見られなかったことだ。

「野球だけじゃなくて人生もそうですけど、誰だって死ぬまでうまくいくことなんてない。これも人生の一部。自分が諦めたり、前に進まなかったりというのは、しないと決めている。自分はずっと戦っています」

 そんな達観したような言葉だけでなく、「前回よりもよくなっていた」「プロセスを1歩1歩踏めている」といったポジティブなコメントも少なくなかった。実際に、前戦のパドレス戦では3回8安打5失点と打ち込まれたが、不運な打球も多かったロッキーズ戦の投球内容は、数字が示すほどに悪くない印象だった。

 ドジャースのデイブ・ロバーツ監督も、「勇気づけられる登板だった。いい球を投げていた。現時点では結果ばかりに捉われるべきではない」と述べている。最近のダルビッシュはフォーム矯正に取り組んでいるが、それがいい方向に向かっているのだろう。ポイントは、約1カ月後に迫ったプレーオフまでに、その”プロセス”を終えて結果を出せる状態まで持っていけるのかどうかだ。

 過去、4年連続で早期敗退を繰り返しているだけに、今秋はドジャースにとって絶対に負けられないポストシーズンになる。ダルビッシュにとっても、今オフにはFAになるという事情もあり、プレーオフが極めて重要な意味を持つことは言うまでもない。試行錯誤を続けている現状はベストではないが、まだ時間はある。

 最大の舞台にどんな状態で臨むか、ドジャースが手に入れた”最後のピース”の行方から目が離せない。