日本代表として2試合を戦った久保建英は、インターナショナルブレイク後のジローナ戦に後半途中から出場し、今季3勝目を挙げた…
日本代表として2試合を戦った久保建英は、インターナショナルブレイク後のジローナ戦に後半途中から出場し、今季3勝目を挙げたチームに貢献した。
今季の久保はラ・リーガのアタッカーのなかでどのくらいの活躍を見せているのか。今回は、スペイン紙『アス』およびラジオ局『カデナ・セル』でレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に、久保と、同じようなポジションで活躍するサイドアタッカーを、データを参考にしながら比較してもらった。
【久保は途中出場からでも活躍できる選手】
久保建英は我々を驚かせ続けている。この日本人選手はすでに多くの長所を持ち合わせていたが、途中出場から試合の流れを変える能力があることも証明した。

久保建英はラ・リーガのアタッカーとして今季どのくらい活躍しているのか
photo by Getty Images
控え選手については通常、ポジティブに捉えていない人が多いだろう。しかし、最大5人の交代枠があり、ベンチ入りした選手全員が実質的に同じ重要性を持つ現代のサッカーにおいてはそうではない。
その最たる例がアトレティコ・マドリードのアンヘル・コレア(アルゼンチン)だ。後半から出るや否や決定的なゴールを決める彼の優れた能力は、試合を一転させる力を持っている。ジローナのベテランストライカー、クリスティアン・ストゥアーニ(ウルグアイ)もそうだ。彼はラ・リーガで最も多くベンチスタートからゴールを決めている選手である。両者とも久保とタイプは異なるが、ゲームに革命を起こせる選手として、その地位はレギュラーで先発出場する選手と遜色ない。
もちろん久保はラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)においてスーパーサブなどではなく、イマノル・アルグアシル監督のプランにおいて重要な選手だ。それはスタメン時によいプレーを披露し、多くのチャンスを作ることだけが理由ではない。ベンチスタートで後半から投入された時でも、ゲームを活性化させる力を保持しているからだ。
エスパニョール戦では後半21分に投入されると、チームに今季初勝利をもたらす決勝点を記録(1-0)。ジローナ戦は後半20分からの出場で、ピッチに入った瞬間から右サイドを実質的に支配し、チームメイト(とくにルカ・スチッチ)と連係しながらドリブルを仕掛け、ゴールラインに到達して際どいクロスを果敢に狙っていった。ゴールには絡まなかったものの、相手の反撃を阻止して再び1-0の勝利に貢献した。
彼には途中出場から試合に適応する能力、スタメンから外された時でもモチベーションを落とさない精神力、さらに後半からの投入であっても試合の流れを変えようとする反骨精神がある。
【ラ・リーガで活躍する他のサイドアタッカー】
私は常々、「久保は単なるウイングではない」と主張してきたし、実際に他とはひと味違うサイドアタッカーだと確信している。実力だけで言うなら、同じようなポジションでプレーするラミン・ヤマル(バルセロナ/4得点6アシスト)、ロドリゴ(レアル・マドリード/3得点1アシスト)、ニコ・ウィリアムズ(アスレティック・ビルバオ/1得点1アシスト)、ジェレミ・ピノ(ビジャレアル/0得点1アシスト)といった、疑いようのないポテンシャルや魔法を備え、チームにアシストとゴールをもたらしている選手たちと肩を並べている。
さらに久保には彼らと違う価値もある。それはリーダーとしての能力があることだ。彼はラ・レアルで潜在的なリーダーとなっている。
カリスマ性を備え、ロッカールームではチームを背負って立つ存在としてリスペクトされている。ピッチではボールを求め続けるだけでなく、チームメイトを励まし、指示を与え、流れを修正し、何かを求められれば耳を傾ける。そういった役割を果たしている点で他のウイングとは異なる。
彼らは生粋のタレントであり、チームはその才能の恩恵を十分受けているため、通常であればそれ以上は求めていない。そして彼らも今以上の力を発揮し、過度に貢献しようとは思っていないはずだ。
一方、久保はそうではない。途中出場から試合の流れを変える能力もさることながら、チームのために身を粉にする献身性や自己犠牲の精神がある。だからこそ後半からであっても集中した状態で試合に入り、多大な貢献ができるのだ。
右サイドのアタッカーとしては、今季はとくにヤマルが目覚ましい活躍を見せている。左利きながら右サイドでプレーしている点、インサイドにも縦にも行ける点で、久保に最も近い特徴を持った選手だ。ふたりとも止めるのが非常に難しいダイアゴナルのドリブルを仕掛ける能力を備えている。どちらも球離れはあまり速くないが、球際で非常に俊敏で、連係能力にも優れている。
スピードを長所とするロドリゴは、相手DFの背後のスペースにうまく入り込むウインガーだ。ボールをそこまで必要としないタイプなので、センターフォワードとして起用された時でも能力を発揮できる。久保はボールを持つプレースタイルで、ロドリゴとは異なっている。
両サイドでハイレベルなプレーができるニコ・ウィリアムズは、ボールコントロールやアシストの能力で久保と似ているが、はるかにスピードがある。ニコがプレーを生み出すためにスペースを必要とする一方、久保には狭いゾーンでドリブルを仕掛ける力があり、そこまでスペースを必要としない。
ジェレミ・ピノはより静的なサイドアタッカーで、インサイドへの走り込みやサイドバックをサポートするハードワークで際立っている。1対1も得意だが、久保ほどのクオリティーや魔法があるわけではない。
【クロス、得点面では物足りない数字】
スタッツに目を向けると、右サイドのアタッカーで総合的に久保を上回るのはヤマルのみ。いいウイングを定義するポイントがドリブルであるならば、久保はその点においてラ・リーガで上位に入る。
久保の今季ここまでのドリブル成功数は19回で、同ポジションの選手としてはヤマルの次に多い。全体では、チデラ・エジュケ(セビージャ/31回)、ヤマル(30回)、ヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリード/25回)、キリアン・エムバペ(レアル・マドリード/24回)、ドディ・ルケバキオ(セビージャ/22回)、アルベルト・モレイロ(ラス・パルマス/21回)、ラウール・モロ(バジャドリード/20回)に次いで8位につけている。
ドリブル数は42回。これはヤマル(66回)、ヴィニシウス(59回)、エムバペ(52回)、エジュケ(46回)、アルベルト・モレイロ(44回)に次ぐ6番目だ。
クロス成功数は3本で、ニコ・ウィリアムズ(7本)、ロドリゴ(6本)、ヤマル(5本)を下回り、トップ50にも入っていない。全体で50本成功させているラ・レアルのなかでは、ラ・リーガで2位と圧倒的に多いセルヒオ・ゴメス(19本)、シェラルド・ベッカー(7本)、アンデル・バレネチェア(4本)に次ぐ4番目となる。
久保が今季、とくに改善しなければならないのは得点面だ。ここまで2ゴールでオーリ・オスカルソンと並びラ・レアルでトップだが、チームの不振もあり昨季の同時期より3点少ない。同ポジションの選手では、ヤマル(4得点)やロドリゴ(3得点)に続いている。
今季の久保は昨季までのようなパフォーマンスを発揮できていないが、それでもプレーのインパクトや成績において、ラ・リーガ屈指のサイドアタッカーであると言うことができるだろう。
(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)