写真提供:共同通信 ■ボール球を振らない=選球眼が良い、とは限らない 野球の試合を見ていると、打者に対して、「なぜそんなボール球に手を出すのか」と言いたくなることはしばしばあるだろう。同時に、「なぜ今の甘い球に手を出さないのか」と思うことも…

写真提供:共同通信

 

■ボール球を振らない=選球眼が良い、とは限らない

 野球の試合を見ていると、打者に対して、「なぜそんなボール球に手を出すのか」と言いたくなることはしばしばあるだろう。同時に、「なぜ今の甘い球に手を出さないのか」と思うこともよくあるはずだ。一般的に選球眼というと、四球の数やボール球をスイングした割合などで評価されることが多いが、ストライクゾーンの甘い球を見逃さずに打ちに行けるかどうかも、選球眼の一部といえるのではないだろうか。

 上のグラフは、今季の規定打席到達者を対象に、各打者のストライクゾーンのスイング率とボールゾーンのスイング率を散布図にしたものだ。右側ほどストライクゾーンの球を振り、上側ほどボール球を振っていることを示す。これを見ると、例えばロペス、倉本のDeNA勢はどちらのゾーンも積極的に振る打者、鳥谷(阪神)や西川(日本ハム)はどちらのゾーンもあまり振らない打者ということになる。

 冒頭でも述べたように、ボールゾーンに手を出すことがプラスに受け止められることは少なく、一般的には、鳥谷はロペスよりも選球眼が優れている、という評価になる。だが、その一方で鳥谷はストライクゾーンのボールを40%以上見逃す打者でもある。この中には、打ちごろの甘い球もきっと含まれているだろう。本来であれば打てるはずの球を打たなかった、というマイナスの評価も平等に行われる必要がある。

 一例として、この打ちごろの球を「ストライクゾーンを縦横に9分割し、その真ん中にあたるゾーンのボール」と定義し、この球に対してスイングしたかどうかをランキングにしたものが表1と2だ。大雑把ではあるが、この表2を見れば、誰が打ちごろの球を多く見逃しているのかが分かる。もちろん、さまざまな局面によって打つべきか打たざるべきかという事情はあるものの、大局的に見れば、打てる球をスイングしなかったことにより、彼らは少なからず損をしているはずだ。

■選球眼によって何点分稼いだのか

 甘い球を見逃せば損をする、という理屈はそれほど難しいものではないが、客観的に見て、どのくらい損をしているのかはよく分からない。そこで、本稿では打ちやすいゾーンを振ったことによる利得や、打ちづらいゾーンを振ってしまったことによる損失などを得点に換算し、各打者の選球眼を実験的に評価したい。

 その手法として、以下のような計算を行った。

(1) カウント(12通り)とゾーン(25分割)ごとに、その打者がNPB平均に対して何パーセント多く(少なく)スイングしたかを求める
(2) カウント、ゾーンごとに、NPB全体で、スイングすることによってカウントがどう変化したか、打撃結果(単打、本塁打、四球など)がどうなったかを評価し、得点への影響(増減)を求める
(3) 各打者の(1)で求めた数値と(2)で求めた数値、さらに投球数を掛け合わせ、全てのカウント、ゾーンの数値を合計する

 計算式の詳細は割愛するが、ざっくりいうと結果が出やすいカウント・ゾーンの球を振ればプラス、振らなければマイナス、逆に結果が出づらいカウント・ゾーンの球を振ればマイナス、振らなければプラスの評価になるというものだ。この計算によって、各打者が平均レベルに比べて選球眼で何点分稼いだのかを、得点という共通の単位で評価することができる。

 ただし、今回の分析では各打者の基本的な打力や得意ゾーンといった要素は加味していない。あくまで、一般的な傾向に照らし合わせて、スイングするかどうかの判断が適切だったかどうかのみを評価している。スイングした際に、その打者が空振りするか、本塁打を打つか、といった部分は、選球眼とは切り離された別の能力であるという考え方だ。

■どちらのゾーンでも“トップ”になった助っ人

 まず、ゾーンをストライクとボールに分け、どの選手が優れた数字を残していたかを紹介する。現時点で100打席以上に立っている160選手を対象とした。

 表3、4はストライクゾーンへの対応による得点の増減を集計したものだ。冒頭のグラフでも積極的なスイングを見せると名を挙げたロペスと倉本が1、2位を占めた。逆にワースト1位に山田(ヤクルト)、2位が筒香(DeNA)となっている。これは、ストライクゾーンを見逃すケースが多いことに原因があると考えられる。

 次に、ボールゾーンでの得点増減をランキング化したのが表5、6だ。最も得点の増加が多かったのは田中(広島)で、1番に定着した2016年からボール球を振らなくなり、四球が増加するなど選手としてのタイプが大きく変化した。一方、前出のストライクゾーンでの得点増減(表3)ではランキングトップだったロペスが、ボールゾーンではワースト1位と極端な結果になった。ストライクゾーンを積極的にスイングすることでプラスを稼ぐ半面、ボール球に多く手出してマイナスも積み上げてしまっている格好だ。

■理想的な選球眼を備える丸

 最後にストライクゾーンとボールゾーンの数字をそれぞれ合算し、トータルの選球眼を得点化したのが表7と8だ。トップはストライクゾーンで4位、ボールゾーンで3位とどちらでも高い評価を得た丸(広島)。甘い球を見逃さず、かといってボール球には手を出さない、まさに理想的な選球眼を備えている打者だ。一方、ワースト2位のロペスはやはりボール球への対応のまずさが響いた格好となった。このことからも、得点への貢献度を高めるという点においては、ストライクゾーンを見逃すことよりもボール球に手を出さないことの方が重要であるといえるだろう。

 以上のように、大まかではあるが、バッティングをスイングの選択とスイングした後の結果の2つに切り分け、前者のみの得点化を試みた。この中の評価で下位になってしまったレアード(日本ハム)やロペスではあるが、スイング後にどのような打球を放っているかという部分を評価すれば、打者としての価値を証明できることは想像に難くない。他にも、例えば打球初速から打者ごとに得意ゾーンを設定すれば、打者が適切なゾーンを振っているかが分かるだろう。また機会があれば、選球眼に関してより精度の高い分析を目指していきたい。

※データは2017年9月6日現在

文:データスタジアム株式会社 小林 展久