春到来を前に、日本のサッカーシーズンが本格的に幕を開けた。男子はJリーグが開幕し、女子のWEリーグもパリ五輪予選の北朝…
春到来を前に、日本のサッカーシーズンが本格的に幕を開けた。男子はJリーグが開幕し、女子のWEリーグもパリ五輪予選の北朝鮮戦後、再開された。女子チームを持っているJリーグクラブが増えているが、浦和レッズもそのひとつ。男女の試合で浮かび上がった問題点を、サッカージャーナリスト後藤健生が徹底検証する。
■女子サッカー「2強」が激突
3月3日の日曜日、全国各地でWEリーグ第8節の試合が行われた。2月28日の水曜日に日本女子代表(なでしこジャパン)が北朝鮮を破ってパリ・オリンピックの出場権を獲得してから、中3日でのWEリーグ再開だった。
サンフレッチェ広島レジーナ対アルビレックス新潟レディースの試合が行われたエディオンピースウイング広島には、新スタジアム効果もあって、4619人もの観客が詰めかけた。オリンピック出場決定を追い風に、WEリーグの認知度をどこまで上げることができるのか。女子サッカー界にとっては重要な時期ということができるだろう。
さて、第8節では浦和駒場スタジアムで三菱重工浦和レッズレディースがINAC神戸レオネッサと対戦した。第7節終了時点でI神戸が勝点17で首位。浦和が同16で2位という首位決戦。
両者は1月の皇后杯全日本選手権でも決勝で顔を合わせて1対1の引き分けに終わり、I神戸がPK戦を制して優勝を飾っている。まさに、現在の日本の女子サッカー界を代表する“2強”の激突だった。
■浦和にとっての「痛恨事」
第8節の両者の対戦も試合の起承転結がはっきりした、引き締まった好ゲームとなった。
I神戸は4分にロングボールでFWの田中美南を走らせて右CKを獲得。北川ひかるのキックに、DFの竹重杏歌里が頭で合わせて早くも先制した(得点時間は5分)。
しかし、その後はホームの浦和がボールを握って優勢に試合を進めた。そして12分には、左サイドでつないで、最後はペナルティーエリアに入ったあたりでボールを受けた清家貴子が反転して、抑えたシュートを左下隅に決める。1対1の同点だ。
北朝鮮戦でも後半に途中出場して攻撃を活性化させた清家はI神戸戦でも絶好調。サイドバックの遠藤優とサイドハーフの清家が引っ張って、浦和は右サイドからの攻めで何度もチャンスをつかんだ。だが、I神戸の3バックが頑張って、前半の浦和のシュートは3本に終わってしまった。
主導権を握った前半のうちに2点目を奪えなかったことが、浦和にとっては痛恨事だった。
試合後の記者会見でも、両チームの監督が浦和の右サイドからの攻撃について言及した。
先に現われたI神戸のジョルディ・フェロン監督はこう語った。
「前半、われわれの左サイド(浦和の右サイド)から攻められた。そこで、後半は竹重に左サイドのケアをさせた」
■神戸の「変則4バック」に
I神戸は、今シーズンも3バックで戦っている。
この日のスタート時のDFは右に井手ひなた、中央に三宅史織、左に竹重という並びだった。本来はDFである土光真代はアンカーポジションでスタートしたが、これは前回の対戦(皇后杯決勝)で浦和のフィジカル能力に対応するため、途中から土光を中盤でプレーさせた、その延長上の決断だった。
だが、後半のI神戸は土光を右のセンターバックに移し、右から土光、三宅、井手のスリーバックとして、I神戸サイドから見て竹重を左のウィングバック(もしくはサイドバック)に置いて浦和の右サイドからの攻撃をケアさせたのだ。
フェロン監督は「3バックは変えたわけではない」と言うが、実際には右のウィングバックの守屋都弥が攻め上がると、右から土光-三宅-井手-竹重の4バックのような形にもなる、一種の可変システムだった。
実際、この変更によってI神戸は守備を立て直して、後半は互角の戦いが続いた。
浦和の楠瀬直木監督によれば、浦和が右サイドから攻撃を仕掛けたのは選手の判断だったのだという。そして、後半、I神戸が守り方を変えてきたので、楠瀬監督は日本代表でもセンターバックを務めている高橋はなをトップで起用。島田芽依との2トップに変更して決勝点を狙った。
選手の判断で攻撃のサイドを決めた浦和にせよ、後半、選手の配置を変更することによって試合の流れを変えたI神戸にせよ、試合中にも監督の采配を含め、さまざまな駆け引きがあり、見どころの多いゲームだった。