結局、2勝1敗の勝ち点6で2位通過となったアジアカップ2023(カタール)。日本は31日の次戦でバーレーンと対戦する。…
結局、2勝1敗の勝ち点6で2位通過となったアジアカップ2023(カタール)。日本は31日の次戦でバーレーンと対戦する。
ここまで3試合でフル稼働しているのは、キャプテン・遠藤航(リバプール)と最年少の守護神・鈴木彩艶(シントトロイデン)の2人だけ。攻守の要で精神的支柱の遠藤が出ずっぱりになるのは分かるが、GKに関しては入れ替えてもよかったはず。目下、野澤大志ブランドン(FC東京)が左手首負傷でイラク戦でベンチ外となり、まだ実戦復帰が難しい中、インドネシア戦でもう1人のGK前川黛也(神戸)を抜擢し、実戦感覚を養わせた方がいいという考え方もあったはずだ。
日本が4度目のアジア王者に輝いた2011年カタール大会を振り返っても、2戦目のシリア戦で川島永嗣(磐田)が不可解なレッドカードを食らい、西川周作(浦和)が登場。彼がそこからピッチに立ち、第3戦のサウジアラビア戦でもいいプレーをして、序盤の不穏な空気を断ち切ったという例もある。
もちろんあの時は2戦で決勝トーナメント進出が決まっていたから、当時のアルベルト・ザッケローニ監督も思い切った起用に踏み切れたのかもしれないが、今回も森保一監督もインドネシア戦では大胆なターンオーバーを実行している。ならば、GKを変えるのも一案だったが、それをせず、あえて鈴木を継続起用した。
■起用に見られた森保監督の思惑
そこには、もちろん森保監督なりの思惑があった。
「前川を起用したりとか、経験のある選手を使う選択肢もありました。1戦目、2戦目に2失点して、本人にもプレッシャーがかかっていたと思います。その中で、まだ彼は若いですし、これからいろいろな経験を積んで、さらに大きくなってもらうという部分で、ある意味で厳しいですけど、試練を与えた。その中でチームの勝利に貢献してもらって、また成長してもらいたいという思いはありました」と3-1で勝利した試合後、指揮官は偽らざる本音を吐露したのだ。
鈴木彩艶にとっては今大会が事実上の正守護神デビュー。ポテンシャルの高さは2017年U-17W杯(インド)に参戦した頃から誰もが認めるところだったが、浦和レッズでは西川という高い壁を超えられず、昨夏のベルギー移籍後にようやくコンスタントに試合に出られるようになったところだ。
そんな状況から瞬く間に代表のゴールマウスを任され、勝敗の責任を託されるのだから、本人もメンタル的にかなり負担を感じたはず。しかも差別的な発言をSNS上で受けており、彼自身がメディア対応の場でそれを自ら発言したほどだった。本当に難しい状況に追い込まれていたはずだが、そこで外してしまったら鈴木のさらなる飛躍はない。森保監督もそう考えて、覚悟を持って3戦連続起用したのだろう。
■鈴木彩艶の言葉
大きな期待に若き守護神はしっかりと応えた。試合の入りから今大会一番の落ち着きを見せ、攻撃の起点となるスローインやキックを何度も見せた。最たるものが後半9分の堂安律(フライブルク)へのロングパス。70~80mの手で投げられるパワーは彼ならではではないか。これが得点につながっていたら最高だったが、決定的チャンスを演出できる鈴木のストロングが出たのは前向きな点と言っていい。
クリーンシートは逃したものの、ラストのロングスローの失点は彼の責任ではないし、この1戦で鈴木は自信を取り戻したはずだ。
「自分としては、苦しいときにチームを救えるようなプレーをしたいと思いますし、そういったシーンがないことが一番ですけど、そういう時に自分自身の力を発揮できるように今日のゲームをしっかりと振り返って、次のトーナメントに向けていい準備をしていきたいと思います」と本人も目を輝かせた。
川島ら過去の偉大な守護神たちもミスや挫折を繰り返して成長していった。そのきっかけを彼がつかんだのは朗報だ。決勝トーナメントになればPK戦なども入ってくるため、GKにかかる責任はより大きくなる。
自分自身が日本の命運を握る存在だと改めて自覚して、鈴木にはベストを尽くしてほしいものである。
(取材・文/元川悦子)